明快なIT活用術を実践

経営戦略とITがブレない

 メッキ加工の千代田第一工業のIT活用は明快だ。新規顧客の開拓を進め、主力商品の「ダイクロン」を伸ばす。さらに次世代の商品開発に結びつけるツールとして活用している。経営戦略とIT導入の目的にブレがなく、ITがもつ威力を効率よく引き出している。

 看板商品のダイクロンは1970年に開発。以来綿々と改良を続けて主力商品に育て上げた。硬くて摩耗しにくい硬質クロムメッキよりも「さらに硬いメッキ」として業界での知名度は高い。複雑な形状をした素材にも、独自につくった治具でメッキを施していく。

 03年には、メッキ表面を泡状に加工することで表面の摩擦係数を抑え、滑りやすくした新しい独自商品「ブラストロン」の開発にこぎ着けた。

 同社のメッキは製缶やペットボトル飲料などの生産設備などに使われることが多い。缶を大量に生産する現場ではコンベアを使って缶を高速で運搬しながら作業を進める。コンベアのガイド部分は缶がこすれて摩耗が激しい。ダイクロンで加工して摩耗耐久性を高めれば、部品の寿命が大幅に伸びる。金属製の缶よりも柔らかくて滑りにくいペットボトルの生産ライン用のガイドのメッキはブラストロンが活躍する。

 今年に入ってからは、ダイクロンよりも硬く、ブラストロンよりも滑る「ダイショット」を開発。今年夏頃には東京都立産業技術研究センターなどと共同で開発中の別の新商品も完成させる予定だ。商品開発スピードを高める原動力になっているのは、顧客の声を製品開発に生かす仕組みと、インターネットを活用した新規顧客の開拓にある。

 インターネットが本格化する前は、売上高の約7割を主要顧客2社で占める「特定顧客依存症」だった。上位2社の設備投資額が業績を大きく左右してしまうリスクがあり、90年代の一時期は売上低迷で苦しんだ。苦境を脱するためホームページをいち早く立ち上げて看板商品のダイクロンやブラストロンを積極的にPR。顧客数の開拓に努めた。昨年度(05年12月)は売上高を伸ばしつつ上位2社への依存比率を5割程度に低減させた。

 「“なんでもできます”では、ネットの世界でも埋もれてしまう」(鈴木信夫社長)と、独自商品の開発を進めるとともに“何ができるか”の戦略を明確化してインターネット上で積極的に情報を開示していくことが新規顧客の開拓に結びつくと話す。顧客企業の担当者は自ら必要とする技術をインターネットで探すことが多い。独自商品の特徴をウェブ上で詳しく紹介すれば、顧客担当者の目にもとまりやすい。

 営業担当者が外回りで社内にいない間に電話で問い合わせがあると、内容をメモしたメールを営業担当者の携帯電話へ送信する。担当者は顧客へ折り返し電話をかけ、そのやりとりの要約を携帯電話のメール機能を使って本社へ送り返す。こうした送受信の記録は翌日朝に配布する社内報に掲載して全員に周知させる。営業の最前線でどういう会話がなされているのかを製造現場を含めた全社で共有することで「次にどんな仕事が来るのか」をおおよそ感じ取りながら作業を進める。

 受注が確定する以前の不定型な情報を共有することで、当事者だけでは気づかないビジネスチャンスや新商品、新技術開発のきっかけがつかめると考える。また不定型情報を記録しておくことで、営業担当者が休みや出張中であっても、他の担当者が過去の履歴を見ながらカバーしやすくなった。

 ウェブを使ったオリジナル商材のPR作戦、営業と製造現場が一体となって情報を共有することで新規顧客の開拓や新商材の開発を加速。ビジネスを伸ばしている事例だ。(安藤章司●取材/文)