「1割経済」「支店経済」といわれる九州経済のメインストリームが、東京へと向かっていることは否定できない。一方で、博多・釜山間を高速艇が2時間で結ぶように、地政学的にはアジアとの連携を強く意識しているのも事実。中長期的に国際競争力のある企業を育成することが課題であり、地元有力企業のIT化は必須条件だ。(光と影PART IX・特別取材班)

大手ベンダー、九州域内を開拓 地場情報産業にもチャンスが

■3年で生産性を2倍に

 「ユーザー側、ベンダー側ともに取り組みのスピードは遅い。(IT産業の)仕事の分配スタイルは依然古いまま」とは、九州経済産業局地域経済部の田上哲也情報政策課長。情報サービス産業のレベル底上げを図ることが不可欠だとする。地元中小企業はもちろん、自治体もセキュリティ問題には苦慮している。「顔の見えるネットワークのなかで、町医者のような問題解決型のベンダーを育成することがポイント」(田上課長)とみている。

 大手ベンダーやその地域子会社でも、行政とは異なる方向からのアプローチながら、結果的には同じ方向を向いている。東京主導になりつつあるナショナルブランドの顧客を追うだけでなく、地元有力企業を新たな顧客として開拓していく。そのためには、地域子会社の技術力を高めること、地元のパートナーを拡充することなどが課題となってくる。

 NECの山脇隆司九州支社長は「各県ごとにばらつきがあり、爆発的に伸びることもないが、元気な企業はある。それを一つひとつゲットしていく」と戦略を語る。企業の内部統制に関する日本版SOX法制定の動きを踏まえて開催したセミナーは大盛況だった。すべての企業が新法対応に取り組むわけではないにしても、「新たな情報投資を引き出す意味でも、グループ会社を抱える企業にとってのSOX法は、2006年度、07年度のキーワード」と、ターゲットが九州に存在することを指摘する。

 NECの100%子会社・九州日本電気ソフトウェア(NECソフトウェア九州)も、九州域内でのビジネス拡大を志向している。現状では売り上げの7割がNECからの受託などで、残りの3割が九州で展開する自主事業だ。同社の佐藤勲社長は「当社の顧客は九州の有力企業。収益性はNEC関連のほうがいいかもしれないが、自らの実力が測れる自主事業を増やしたい」という。地元密着型の身軽さを生かし、コスト競争力を高め、九州域内事業の拡大を目指す考え。

 「生産性を年間30%、3年で2倍に高めることが目標。NECのノウハウも活用できるので、技術・品質・スピードでナンバー1の評価を得て、さらにコスト競争力を高めれば、顧客もこちらを向いてくれるはず」(佐藤社長)とみる。

 富士通グループの地域システムエンジニアリング(SE)会社も、地元での存在感を高めることを目指している。福岡を本拠とする富士通九州システムエンジニアリング(FQS)について、富士通の浦川親章九州営業本部長は「ビジネスは、うまく回転している」と評価する。売り上げの構成比は、九州域内3に対し、域外が7で、NECソフトウェア九州と同じ。しかし、域内の他のグループSE会社に比べ、人員規模が大きく(約800人)、富士通本体の支援だけでなく、自主事業も展開できているためだ。

■パートナーとの連携を強化

 FQSの富永英俊社長は「もともとは、地場の顧客をサポートするのが仕事。自主事業の比率を高めたい」としている。富士通本体に貢献しつつ、自ら稼ぐという方針をより深化させていく考えだ。中堅の民間企業がターゲット。上流工程が中心となるだけに、地元のソフトハウスやSOHO事業者などの育成にも努め、安定的で低コストの体制構築も図っている。

 ただし、富士通グループとして見た場合、それだけでは満足できない部分もある。九州の他の3社のSEは規模が小さいため、「本体支援中心になってしまう」(浦川営業本部長)側面もあるためだ。これを解消するため、昨年から九州4社で民需と医療の2つのチームを作り、相互補完する体制をスタートさせた。「活動は、06年から本格化する。リソースマネジメントにより、強みを発揮できる体制ができつつある」ようだ。

 4月に九州域内のソリューション事業を再編した日立製作所グループ。中核となる日立システム九州の市山信也社長は「ターゲット企業は約3300社あるが、これまでは大手中心にアプローチしてきたためシェアは1%にとどまっている。3年後をめどに6%に高める」とする。

 年間50社の新規顧客獲得が条件となるが、昨年10月から3月までで15社を獲得し、手応えを感じている。

 計画を確実にするための施策としては、パートナー企業などの拡充を図る。「地元に貢献する意味でも、パートナーは増やしていかねばならない。各県2社ずつは必要。SOHOとのチャネルも作っていき、研修なども細かに対応していきたい」(市山社長)考えだ。

 一方、今回の再編で売り上げの8割近くが、日立システム九州の固有の事業となる。機動力が増す半面、リスクも高まる。このため、事業安定性の面からは、売り上げ全体の拡大を図る前提のもとに日立本体からの受託開発を増やしたい意向もある。現状2割の受託分を2010年には3割、13年には4割程度に高めたいようだ。

 ただし、単純に受託比率を高めることが目的ではない。電力や鉄道などの社会インフラ系企業に対しては、日立本体と取り組んできた経緯があるため、「SEの技術力や会社としての体力という面で、不足するところがあるのも事実」(市山社長)だからだ。今回の再編は、同社にとって飛躍のための第1ステップだが、近い将来に必要となる第2ステップのためのジャンピング・ボードを仕込んでおく意味合いもある。

 大手ベンダー各社は、揃って九州域内の有力企業へのアプローチを開始する。しかし、各県ごとに経済環境にばらつきがあるだけに、簡単に業績を伸ばせるわけではない。効率化を志向するなかで、地場の情報サービス産業との連携も増えていくとみられる。裏を返せば、各県に本拠を置く情報サービス産業にとっても、ビジネス拡大のチャンスがあるということだ。