コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第54回 佐賀県

2006/05/01 20:42

週刊BCN 2006年05月01日vol.1136掲載

 地方の場合、発注額でもソフト開発の規模でも大きなプロジェクトとなり得るのが自治体の情報システム案件だ。電子自治体化に伴い、自治体のシステム発注は高度化している。そうしたプロジェクトに対して地元SIerと発注側の思惑の違いも顕在化している。(光と影PART IX・特別取材班)

自治体案件の要求水準高く 地元SIerの受注は困難

■要員不足でSEフル稼働

 佐賀県は2002年度に、電子申請および文書管理、県庁ポータルサイト構築、職員ポータルサイト構築、さらにこれらのシステムの運用保守にかかわる一切を一括して発注することを決め、年度末から電子県庁基本設計を公表した。そして、関心を持つ企業や下請けとして参加する企業を県内から受け付けた。佐賀県内のSIerは佐賀県ソフトウェア協会として、この案件への参加を表明。だが、実際に電子自治体構築案件を落札したのはNTT西日本で、地元業者の共同体は敗退することとなった。

 産業振興の立場からみれば、地元企業が受注するほうが理にかなう。しかし、「WTO案件として一般競争入札にしなければならない。地元企業だからといって特別扱いはできない」と佐賀県統括本部情報・業務改革課の久保田正久副課長システム開発担当は語る。応札価格に置くウェートと要求用件に対する落札者の技術評価に置くウェートは「どちらかが重いというのではなく1対1」という。発注案件の規模が大きければ大きいほど、マンパワーや経験に乏しい地元企業が受注するのは難しくなってくる。

 個別システムごとに切り分けて発注するという方法もある。案件ごとの発注額は小さくなり、地元企業を優先して発注するような仕組みも可能になる。しかし「個別に切り分けて発注しても、最終的にそれらの進捗を平準化するといったプロジェクト管理も難しくなる」(久保田副課長)ことから、必然的に一括して発注する方法を採用せざるを得なかった。

 もちろん地元SIerにそれだけの力が備わっていれば、大型案件の受注は難しいことではない。しかし、「単価が厳しい案件が多いのが実情だ。大きな人月をかけても採算が合わない」(下村宗治・佐賀電算センター専務)というような、企業にとって厳しい面がある。それでなくても、「SI案件は多く、SEはフル稼働の状態。残業が多く彼らに申し訳ないという気持ちもある」と、大規模案件は喉から手が出るくらい欲しくても、実際には現状で手一杯という。4月決算の同社の場合、06年4月期は、「一定の利益は確保しているが、予定していた案件が取れなかったこともあり若干の減収減益になる」。

 地方では、自治体案件は長期的なビジネスにもつながるとともに地域密着型の比較的大型の案件になるケースが多い。佐賀市が基幹システムのリプレースで、韓国のサムスンSDSを受注企業に選定したことは、日本のSIerに衝撃を与えた。発注者側である佐賀市にいわせれば「要求案件を満たしていたのはサムスンSDSだけ」ということになるが、システム開発の過程で様々なトラブルが発生したのも事実だ。05年10月1日付で佐賀市は周辺3町を合併したが、その合併にかかわるデータ統合でも同様だった。そのため3月末で引き上げる予定だったサムスンSDSでは現在も数人のSEが対策に当たっており、さらに新たな契約で常駐技術スタッフ2人を派遣している。

■ネット利用促進で地元企業を活性化

 この裏には、運用保守は地元企業に発注するという方針で当初、佐賀電算センターが受注していたが、今年度は受注競争に勝った佐銀コンピュータサービスが新たに3年間の契約を取ったという事情もある。

 運用保守を委託するSIerを、年度始めに新たに入札で決めるというのは既定路線。「そのため入札に参加する企業を対象にシステムの研修会も実施し、システム運用に必要な技術スキルを高めてもらう機会もつくった」(真崎武浩・佐賀市情報政策課副課長兼IT促進係長)というように、市側も地元企業受注のチャンス拡大を図った。この研修会に参加したのは佐銀コンピュータサービスと佐賀電算センターの2社だけ。当然ながらシステム開発段階から前年度まで運用保守に当たってきた佐賀電算センターの受注への期待は大きかった。「自治体の基幹システムを獲得したことがない。このため自治体合併特需も享受できなかった。佐賀市のシステム運用は、自治体ビジネスを拡大していくためにも必要だった」(佐賀電算センターの下村専務)と悔しそうだ。

 佐賀電算センターの売上高に占める公共分野は3分の1ほど。それ以外はパッケージ開発販売を含めた民間向けである。05年には東京と大阪に事務所を開設した。これは下請けの窓口として機能させるのではなく、「オリジナルパッケージの販売拠点」と位置づけている。提携関係にある富士通グループと医療分野などの独自開発パッケージを売り込んでいる。さらに、「東京や大阪といった大きな市場に目を向けるだけでなく足下を固める」(下村専務)ために福岡市にある開発子会社を、地場市場の開拓拠点に育成することも検討している。

 佐賀県内の中堅・中小企業の情報化に対する意欲は、「それほど高いとはいえない」とは佐賀銀行グループなどが出資するネットワーク設計・構築をビジネスとするデジタルコミュニケーションズ佐賀の西村龍一郎代表取締役。同社は企業や地域のインターネット利用を促進するために97年に佐銀コンピュータサービス16%、佐賀銀行2%のほか佐賀新聞社14%、九州電力10%、サガテレビ8%、佐賀電算センター4%など地元企業を中心に20社が共同出資で設立した。「企業でのインターネット利用が進みつつあるなかで、佐賀県にもネットワークインフラを構築する」(西村代表取締役)ことを目的にプロバイダ事業に集中してきた。佐賀県内のCATV普及率は46%と高いことから地元CATV局をネットワーク化しケーブルインターネット利用に弾みをつけた。

 ただ西村代表取締役には「インフラ作りに集中し、サービスコンテンツの提供が遅れた」という反省もある。BtoBを支援するサービスコンテンツがあれば県内企業のネット利用ももっと進むのではないかというわけだ。今後は「インターネットをどう経営改革に生かすのか、という視点で企業の情報化を支援していきたい」と語る。それがSIerだけでなく製造業、流通など地元企業の活性化につながるとみる。
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