SI新次元 経常利益率10%への道

<SI新次元 経常利益率10%への道>1.トランス・コスモス(上)

2006/05/29 20:37

週刊BCN 2006年05月29日vol.1139掲載

収益回復へ受託開発を凍結

技術力底上げし、信頼性高める

 国内SIerの大半は、経常利益率が数%台で、他の業種に比べ極めて低い。情報システムの価格下落、人件費の高騰など要因は様々だ。だからといって、利益率確保をおろそかにし、事業体質の改善を怠れば、「淘汰」される可能性が高い。一方で、新しい収益モデルに果敢に取り組み、確実に利益を上げるSIerもある。「経常利益率10%の道」はどこにあるのか、実例をもとに新しいSIer像を探る。

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 トランスコスモス(奥田昌孝社長)の2005年度決算(連結)は、売上高が前年度比15.9%増の1064億6800万円、営業利益が60.1%増の80億100万円。営業利益率7.5%は受託開発系の大手SIerでトップクラスだ。

 コールセンターやインターネット関連事業に加え、CAD/CAMをコアとするエンジニアリング系オンサイト型サービスが好調に推移した。しかし谷澤寿一副会長は「まだまだ」と気を緩めていない。昨年の秋、ある大手自動車メーカーの大規模なシステム開発案件でトラブルが発生、20億円を超す損失を計上したからだ。

 「あれがなかったら、営業利益率10%の目標が達成できていたかもしれない」と悔やむのは、ソフト部隊を統括する東日本システムソリューション(SS)部の小板橋豊次部長だ。不採算案件の要因は、システム設計段階における発注者と受注者の間の小さな行き違いであることが少なくない。

 「理由や原因はどうあれ、受託した以上、責任は当社にある」が経営トップの判断だった。同時に経営トップは「受託開発を遂行するには、当社のソフト部隊は技術、体制が未整備」として、受託開発からの一時撤退を決定したのだ。

 「安定路線のオンサイト開発に転換する」というのは、SIerにとってはたいへんな勇気が要る。「リスクはあるが、工夫次第で大きな利益を生む」と受託開発を推進してきた小板橋部長には厳しい現実だった。経営指標には、「売上高経常利益率10%以上の回復」を掲げている。オンサイトで大口顧客を多数抱える同社は、「経常利益10%以上が、信頼性確保の最低ライン」と、あえて自らに高いハードルを課したわけだ。

 「復活」へ向けた布石はすでに打たれている。同社には、創業者の奥田耕己氏が社内に浸透させた伝統がある。「現場でノウハウやスキルを確実に獲得せよ」。そこで得た技術力の社内指標を「職業要件定義書」にまとめた。小板橋部長は「現場で得た技術を個人の指標にまとめモチベーションを上げる」と力を込める。

 大口顧客を持つサポートデスクやCAD設計支援のエンジニアソリューションなどと連携を深める“横串し”に組織も再編した。SIerの経費は8割が「人件費」。このコスト抑制に韓国のIT人材を積極的に活用するという。来年度(2007年3月期)の事業計画には、再度「受託開発」を組み込んだ。「人材の技術力を底上げし、もう一度復活する」。(つづく)(谷畑良胤●取材/文)
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