コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第57回 鹿児島県

2006/05/29 20:42

週刊BCN 2006年05月29日vol.1139掲載

 「県内の民需だけでは生き残れない」という思いから首都圏指向を強める企業もあれば、自社パッケージの開発にこだわり、県外進出に自信を深める企業もある。鹿児島県のSIerは北九州から遠い分だけ、独自の道を切り開く勇気を持っているようだ。(光と影PART IX・特別取材班)

独自スタンス目立つ地場系SIer 医療、介護でも異なる方向性

■オープン化で工数増が採算悪化に

 鹿児島県のSIerには独自の道を歩んでいる企業が多い。医療ないしは介護保険分野に数多くの実績を持つ地場系SIerが目につくが、同じ分野に取り組みながらその方向性に似通ったところが少なく、それぞれが我が道を行くという明確なスタンスを持っているようだ。

 まず、総合医療情報システムの雄として関東や関西でも知名度の高いソフトマックスは、付加価値の高い大型システムに特化した姿勢を打ち出している。

 同社の大山初雄常務取締役は、「オープン系システムへの移行が進んだ結果、開発工数が多くなって採算性が悪くなってきた。このため自社でしかできない業務に絞り込まないと将来像が描けなくなった」と語る。

 選んだ道は大規模病院向け医事会計システムや電子カルテ、そして電子カルテと一体化して医師からの指示を受け渡すオーダリングシステムへの特化であった。

 同社が手がける電子カルテやオーダリングシステムは上位クラスの医療機関でしか採用していないため、普及するのはむしろこれから。特定ジャンルに特化しながら、今後の伸びに期待できるところが強みでもある。

 もっとも、売り上げの65%を占める医療関係とは別に、独自のソリューション事業も展開している。こちらも「パッケージ指向でない顧客を対象に、取引先とタイアップしながら開発する」(大山常務)という独自性を保つ。流通卸業や製造業、建設業などを対象としながら生産管理、販売管理、原価管理といった既存のシステムに人事・労務・評価などを加味した独自のERPに発展させている。

 同社は東京に本社、鹿児島に本店を置き、名古屋、大阪、福岡、久留米、熊本、宮崎などに事業所を構える。東京本社、鹿児島本店という体制は、東京で全国の大型案件を受注し鹿児島で開発するという業務上の理由ばかりではなく、近い将来のIPOをにらんでの対応となっている。

 西郷隆盛や大久保利通など明治維新の立て役者を数多く輩出してきた鹿児島市加治屋町に本社を構える南日本ソフトウェアは、介護・福祉ソリューションに強い中堅SIerだ。県内100か所の介護施設のうち60か所に納入実績を持つ。社会福祉法人向けシステムの売上高構成比は40─60%と高く、ほかにも医療機器や薬品のトレーサビリティ管理システムを自社開発、納入してきた。

 「これまで市町村で完結していた障害者福祉も、今後は国保にオンラインで費用を請求できるシステムの構築が求められることから、介護施設における経験を活かしつつ、この方面にシフトしていきたい」と、同社の方向性について上野正範社長は語る。

■受託、派遣にタッチしないSIerも

 南日本ソフトウェアは県外指向の鮮明な企業でもある。上記のパッケージも新興サービス(東京都港区)を代理店として関東全域、北海道、東北、中部に至る幅広いエリアに納入しているほか、東京サポートセンターに開発部隊を送り込んで受託開発の営業に力を入れている。

 受託開発におけるクライアント先は、NECと日本事務器および両社の関連企業だが、近く博多に拠点を設けて日本事務器の子会社であるエヌジェーシー北九州ソフトからの受注強化にも乗り出す。

 上野社長は「鹿児島県内の民需だけでは生き残れない。東京で仕事をとるとか福岡に拠点を持つというのは、企業として成長するうえで避けて通れない道だと覚悟している」と指摘する。

 病院向けの医事管理システム「HOPEシリーズ」で鹿児島県立病院をはじめとする大小医療機関に700件強の導入実績を持ち、県下でナンバーワンを誇る日本システムもこの方面では見逃せない有力企業だ。

 同社にはナンバーワンがもうひとつあり、木材業界向けの販売管理システム「木くんシリーズ」が業界トップシェアを誇っている。

 日本システムの特徴はパッケージ開発に対する力の入れ方が際立っていることで、売上高の何と45%を自社パッケージが占める。それも卸売業、運送業、青果市場など個別業界に特化したものが中心で、導入前のコンサルティング・提案・開発・導入支援を一貫してサポートしているため県外からの受注も多く、元請けからの受託開発や派遣にいっさい頼らずに経営が成り立っている。

 「当社には首都圏指向はない」と肥後義喜常務取締役が言い切るのも、富士通、カシオ情報機器、エプソン販売などのパートナーとしての立場に加えて、「客先ニーズにマッチしたパッケージ開発力」があれば、自ら出て行かなくとも県外に販売することは可能だという自信の賜物であろう。

 頭脳立地法に基づいて平成2年に設立された鹿児島頭脳センターは、自治体や企業に対するITコンサルティングおよび導入、技術学習支援などが主要業務である。

 顧客のニーズを分析して基本設計や仕様書づくりに携わるのはもちろん、コスト判断やベンダー評価に至るまでの提案を行い、業務のIT化をサポートする。また、県内の多くの自治体が利用する電子申請共同運営システムの運営を受託するなど運用面の実績も多い。

 自治体では基幹システムや情報系システムのリプレースに伴うオープン系の導入支援、一方、民間企業では再構築での業務やシステムの見直しなどが増えつつある。山下博美IT事業部長は、「顧客サイドに立ち、適正かつ効果的、効率的なIT化を提案するのが当社の大きな役割だ。特定のベンダーやメーカーに顧慮しないスタンスで導入支援を遂行する当社の意義は、これからいっそう評価されるはず」と期待を寄せている。
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