コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第60回 沖縄県(最終回)

2006/06/19 20:42

週刊BCN 2006年06月19日vol.1142掲載

 沖縄県には、ここ数年でコールセンターやソフトウェア開発、コンテンツ開発など多くのIT関連企業が誘致・設立されている。特に低コストな労働力を生かしたコールセンターは40か所以上を数える。しかしその一方で、「契約社員で構成するコールセンターだけで雇用問題は解決できない。IT人材の育成と国内オフショアとしてのソフト開発の誘致が沖縄県のIT産業振興には必要だ」という地元のIT関連企業の声も大きくなっている。(光と影PART IX・特別取材班)

雇用確保にIT企業を積極誘致 IT人材の育成に行政の支援を

■ビジネスの大部分は首都圏に依存

 総務省の労働力調査によれば、2005年の完全失業率は全国平均が4.4%だったのに対して、沖縄県は7.9%と高い。他県と違い、大きな製造業がないことや、離島地域が多いために企業数や就業のチャンスが少ないというハンディがある。雇用機会を増やすための施策のひとつとして、沖縄県ではIT関連産業、なかでもコールセンターの誘致に力を入れてきた。首都圏をはじめとして本土に比べれば安い労働力やオフィスの賃料などを生かして、大量雇用に直結するコールセンターがもっとも効果的なわけだ。県内には、すでに40か所以上のコールセンターが稼働している。

 そうした政策の効果を認めつつも、地元情報サービス産業には、雇用を拡大しながら「技術が根づくソフト開発産業を誘致したい」という目論見がある。

 アールシーエス(RCS)の本社は那覇市に隣接する豊見城市にある。那覇空港からも近い同社は、沖縄にある本社と東京支社をベースにソフトの受託開発や人材派遣をビジネスにしている。

 「沖縄と東京の“双子体制”。東京支社が受託開発の受注拠点で本社が開発拠点という位置づけと、東京支社を拠点に大手ベンダーなどに開発者を派遣する体制」(与那覇正文社長)で、売上高の70%以上を首都圏が占める。「地元では大きな企業が少ない。中小企業のITニーズは低く。規模も小さい。本来は、沖縄と東京を半々にしたいが、現実的には不可能」とみている。東京では、業界団体のシステムをアウトソーシングするなどチャンスは拡大している。また、自動車メーカー系のカーナビゲーションソフト開発も行っており、組み込みソフト分野の拡大にも意欲的。

 「社員のほとんどは東京を経験する」という同社にとって、ビジネスの中心であり技術スキルを高めるためにも東京の拠点は重要だ。東京支社の人員を拡大する計画も立てている。しかし、沖縄での事業拡大をあきらめているわけではない。「豊見城市が計画しているITコンタクトセンターへの進出を検討している。コールセンターよりIDCや組み込みソフトの開発拠点にしていきたい」と与那覇社長は意欲を見せる。

 大手ベンダーでも首都圏中心のビジネスという事情は同様で、常時数十人規模でSEを派遣している。NECソフト沖縄の折出光男社長は、「沖縄にはNECだけではなく大手ベンダー各社がソフト開発拠点を置いている。人材の供給も限られており競争は激しい」と状況を語る。もともと大手ベンダーが地方に開発拠点を置く背景には、地方のSE労働力を取り込むという目的があり、地元ニーズへの対応は優先順位からいえば低い。地域のパートナーを生かすという点からいえば、「NECで請け負った地元のビジネスで協力してもらったり、首都圏の開発案件にも参加してもらったり」ということを重視。積極的に地元ニーズを開拓できない要素もある。

■地元、大手ともにIT人材不足に悩み

 沖縄富士通システムエンジニアリングの土田昭夫社長は、「東京の案件では流通、大阪の場合は医療というように分野をセレクトして富士通グループ内への開発協力を行っている」という。それでも地元の市場環境を生かして、「レジャーホテル用システムなど全国にも対応できるようなパッケージ開発を行ってきた」が、結局は「市場そのものが小さく、開発したパッケージ中心でビジネスはできない」ということになる。こうした大手の場合、「チャネルの大きさを生かして、パッケージを全国展開する」(折出・NECソフト沖縄社長)というメリットはあるが、IT市場の技術革新やトレンドに追随するには地方であるが故にタイムラグも生じる。

 沖縄県情報産業協会をはじめとして情報関連団体が集まる沖縄県情報通信関連産業団体は04年10月に稲嶺恵一・沖縄県知事に対して「沖縄県情報通信産業振興に関する提言」をまとめた。この提言では、沖縄県内のIT市場を活性化することで、産業振興を図るとともに人材育成にも貢献することを訴えている。「ソフト開発のオフショアが盛んになっているが、品質や言葉の問題で沖縄が有利な点は多い」(沖縄県情報産業協会の砂川毅・事務局次長)とアピール。地元雇用拡大を掲げ首都圏向けのソフト開発を目的に地元銀行や地元SIerなどが出資して02年に発足したフロンティアオキナワ21の社長を務める饒平名知寛・リウコム常務は、「今の沖縄県では人材のボリュームや企業の資金力、そして企業のマネジメントという面で直ちに事業や市場の拡大に対応できないケースも多いだろう」と見ている。

 産業規模が小さい沖縄県では、自治体の情報化は大きな発注案件になる。しかしそれも限られたSIerが受注できる、というのが実態だ。

 それでも「税務と建設関係のシステムを除いて、電子県庁構築でオープン化は進めてきた」(武内孝夫・沖縄県企画部情報政策課長)と電子自治体構築は着々と進み、さらに電子申請についても地元企業にアウトソーシングするなど地元にも目を向けている。

 沖縄が抱えるもうひとつの大きな問題は地理的なハンディ。離島を含めた県内全域のブロードバンドネットワークの完成は、07年の予定。しかも、南北大東島のようなところは「人工衛星を使うことを検討している」(武内情報政策課長)というように、費用も大きくなる。

 地理的には不利な面が多いが、「SE経験者で沖縄の気候にあこがれて移住してくる技術者もおり、現にそういう人材も採用している」とRCSの与那覇社長。気候風土だけで優秀な人材を確保できるわけではないが、それも沖縄の魅力のひとつ。インフラとしてのブロードバンドネットワーク、IT人材を育成するための行政の支援が充実すれば、さらに沖縄をオフショア開発に活用する魅力が出てくるだけでなく、地元市場の開拓も進むだろう。

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 今回をもって、本シリーズは終了いたします。長い間、ご愛読ありがとうございました。(BCN編集部)
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