トップダウンは自治行政に馴染まない

都市と過疎地域 横たわる格差をどう埋めるか

 電子自治体システムの構築で、政府は「脱レガシー」と「オープンソース・ソフトウェアの利活用」を喧伝した。少子・高齢化の到来に伴う財政バランスを予測すると、ITコストを削減せざるを得ない。レガシーシステムはその弊害と目された。だが、オープン化技術に移行するだけでは、かえってコストアップになるということが分かってきた。では共同センターによるASPはどうだろうか。(佃 均(ジャーナリスト)●取材/文)

■コストカッターの切り札か

 2001年にスタートしたe-Japanプロジェクトのなかで注目されたのは、「オープンソース・ソフトウェア(OSS)の利活用」と並んで、LGWANの「共同アウトソーシング構想」だった。エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を採用して、市区町村が運用しているレガシーシステムと、新規に導入するオープン系システムを相互に連携するASPサービスを提供するのだ。

 総務省の外郭団体である財団法人地方自治情報センター(LASDEC)によると、今年3月末現在、提供されているアプリケーションとサービスは105件。運営主体は都道府県34、地方公共団体協議会11、民間事業者・公益法人43だ。アプリケーションの内容を詳細に見ると、「電子申請・届出」44、「電子入札・調達」24、「行政情報管理/共有」22、うち60件が市町村向けで、適用分野は土木・建設、総務・企画、出納、福祉・医療、教育・文化、消防・防災などをカバーしている。

 LASDECの統計には利用団体数が示されていない。というのは、提供されているアプリケーションやサービスはLGWANの基盤にかかわるものなので、LGWANに参加する市区町村のすべてが利用している、ということになるためだ。普及率はほぼ100%、「適用分野に目立った偏りはなく、幅広く利用されていることが分かる」とLASDECはいう。

 OSSは無償で利用できるし、標準のアプリケーション・プログラムを市区町村が共同で利用する。個別にシステムを構築するよりITコストを抑制することができる。アプリケーションはセンターのサーバーに格納されているので、運用管理やバグフィックス、バージョンアップも一元化できる。中長期的に見た運用コストを下げることができる。既存の個別システムを改造する必要もない。いいことづくめ、コストカッターの切り札であるかに見えた。

 ところが──。

 これまでの経緯を見ると、01年度に総務省の主導で官民共同の協議会が発足し、02年度にモデルシステムの開発がスタートした。EAを採用したねらいは、LGWANのサービスインに必要な基盤アプリケーションに焦点を当てたためで、市区町村の現場に適用できる業務アプリケーションは視野に入っていなかった。

 そこで総務省は、都道府県単位で域内市町村が参加する共同利用協議会の設立を促し、都道府県主導で開発した電子申請システムや電子調達システムなどを提供する方策に転換した。その結果、47都道府県のうち北海道、福岡県、愛媛県など14道府県で電子申請システム、電子調達システムの共同運用が開始されている。

 ところがこの方策も、実務レベルで行き詰ってしまった。利用料金を人口規模に応じて設定すると定めたため、「利用頻度を考えると、かえって割高になる」という指摘が少なくなかった。

■地域特性とどう折り合うか

 総務省主導の共同アウトソーシング協議会、都道府県レベルで取り組みが始まった共同利用協議会のいずれもが、「笛吹けど踊らず」の状態なのは、市町村における行政事務の現場を熟知しないまま、官僚機構が机上で組み立てた理論的整合性を前面に押し出した結果にほかならない。

 なるほど原則論で見れば、市町村の行政事務は全国共通の法制度に基づいて遂行される。そうであれば業務処理システムは共通でいいではないか、なぜ同じ業務を処理するために市町村が個別にアプリケーションを開発するのか──という官僚機構の見解は、一般の理解を容易に得ることができる。ITのコストは標準化によって大幅に抑制できる、というのも事実だが、実際はそのように単純な話ではない。

 中央官庁や都道府県の官僚機構が見落としているのは、市区町村が直面している最大のテーマは総務省が言うような「ITコストの抑制」ではないということである。情報システムのオープン化云々ではなく、また「システムの拡張性、柔軟性」でもない。それぞれの重要性は理解していても、さらに重要なのは、IT化(ないし電子化)の推進施策を、どのように地域特性と折り合いをつけるか、ということなのだ。

 地域特性とは、人口規模(世帯数・年代階層)と密集度、経済構成(農林水産型・工業型・商業型)、地勢や気候、ネットワーク・インフラの普及度、情報リテラシーの水準、エリア類型(都市型・ベッドタウン型・山村型)、中核都市との距離感、さらにいえば歴史的・文化的背景などを総合したものだ。

 過疎地域と都市の論理は、しばしばすれ違いを起こす。e-Japanプロジェクトの発想の多くは、都市の論理を過疎の地域に当てはめようとする傾向が強かった。なぜなら中央官庁や都道府県の官僚機構は都市に存在しており、施策の多くは都市から発信されるからである。

 仮に総務省主導でASP型の財務会計システムや税徴収システム、住民記録システムなどが提供されていたとしても、韓国のようには普及しなかっただろう。

 韓国が自治行政の法整備を行ったのはつい10年前であり、それまで地域行政単位の首長は国の任命に拠っていた。かつ行政単位は国―道・特別広域市の2階層で構成され、日本の市町村に相当する細分単位が存在していない。

 対して日本の自治行政単位は、国―都道府県―市区町村の3階層で構成され、それぞれに民意主導の自治権が認められている。国が市町村に共通システムを提供(配布)するトップダウン型の方策は、韓国では当然のことと受容されるが、日本の自治行政制度に馴染まない。

 また、ASPの概念(発想)は、都市部に設置した共同センターの機能を過疎の地域に提供する構図で描かれている。脱レガシー/Webアプリケーション型への移行にいち早く取り組んだ先行自治体は、人口20万人以上の中核都市が中心。お互いに情報を交換し合い、「いいとこどり」を指向したにもかかわらず、成功・失敗の色あいが鮮明になっている。

 例えば、都市部における社会保険料の徴収は年収ベースの「保険料」だが、農村部では不動産などの資産を合算した「保険税」で行われる。法律に基づいて行政事務が処理されるのだから、同一のアプリケーションでいい、というわけではない。東京都の葛飾区や三鷹市、千葉県の市川市や浦安市、神奈川県の横須賀市は円滑に進展し、青森市や佐賀市などに若干の支障が指摘されるのは、共同アウトソーシング構想の構図そのものに原因がある。