IT化は住民に役立っているか

本来の目的見失う懸念も

 電子自治体システムは本当に地域住民の役に立っているのだろうか。本来は行政コストを抑制・削減し、住民への行政サービスを質的に向上するのがねらいだったはずだが、いつの間にか電子化/IT化が目的にすり替えられているのではないか。ここにきて相次いで摘発されている地方行政トップによる官製談合も、電子自治体の弊害であるかもしれない。今号から電子自治体システムと産業・社会とのかかわりを探っていく。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

■電子入札が多重下請けを助長

 官製談合の摘発件数は、1980年代は年間10件程度だった。バブル崩壊後の94年は21件に跳ね上がったものの、96年、97年の各29件をピークに減少傾向にあった。05年は17件と、久しぶりに10件台でおさまった。ところが、昨年は一気に38件、その他の官による自由競争妨害を加えると50件ほどにも達している。

 その背景には、検察当局が摘発対象を贈収賄から官製談合に移したこと、公共工事への依存度が高い土木建設業が選挙活動を通じて地方公共団体の首長の強大な権力と癒着したこと――などがあるとされる。とはいえ不思議なのは、電子自治体システムの普及で入札は透明度を増しているはずなのに、なぜ官製談合の摘発が増加しているのか、ということだ。

 ある事例で実情を探ってみよう(迷惑がかかるといけないのでA市のB氏という表記を使う)。

 B氏は道路工事や下水道工事を請け負う、いわゆる土建会社を営んでいる。彼が住んでいるA市が数年前、電子入札システムを稼働させた。市が発注する道路工事や下水道工事は市のホームページに公示され、公開調達方式で落札者が決まる。

 公共工事の受発注プロセスの透明度は高まるが、応札企業の所在地を一定地域に限定しない公開調達であるため、県内で事業許可(中小建設業の多くは同一県内でのみ事業が認可されている)を取得している業者が殺到する。というのも、それまでは地元市町村の仕事で何とかなっていたのに、公共工事が減少したため、他地域の仕事に手を伸ばさざるを得ないからだ。

 公共調達では多くの場合、落札の下限(最低価格)が設定されていない。1円入札の温床はいまだに改善されていないのだ。むろん、中小事業者が1円入札はしないにしても、どうしても仕事がほしい(従業員を遊ばせておくより、給料相当額でもいいから売り上げを立てたい)ので、ギリギリの価額で落札する。

 落札した他地域の業者は、足回りの不便さもあって、地元業者に再発注する。発注側のA市はコストを抑制できるので「電子入札システムの成果」と胸を張るが、地元業者はたまったものではない。

 「例えば、従来は100万円で受注できた仕事が、電子入札システムのせいで70万円になってしまった」とB氏は嘆く。「ここにきて倒産したり廃業した地元の土建屋が何軒もある」と深刻な表情をみせる。 B氏の会社も「背に腹は代えられない」と、他地域の事業者が落札した地元小学校(たまたまB氏のお孫さんが通っていた)の耐震構造工事を請け負った。「本来なら地元のわれわれが市と直接契約する仕事。地元の業者が地元の仕事をするのに、なぜ他地域の業者の下請けなのか。下請けの階層を増やしているだけではないか」――B氏の憤りはもっともだ。


■発注額抑制と地場育成の相反

 なるほど電子化で入札プロセスの透明度が高まり、官と民の癒着や業者間の談合(言葉を換えれば「受注調整機能」)が働かなくなった。ある意味では健全化されたともいえるが、その一方にある「地元産業の育成」という面ではねじれが起こる。

 むろん発注者側にも言い分がある。それは「他地域の事業者との競争が、強い経営体質の企業を地元に育てることにつながる」というものだ。だから電子入札システムは、長い目でみれば地元産業の育成に効果がある、というのだが、当の事業者にすれば納得できる話ではない。

 同じようなことが情報システムの調達でも起こっている。特定ベンダーのアーキテクチャから脱却する「脱レガシー」でシステムをオープン化すれば、地元企業の参入機会が増え、地元IT産業の育成につながる、というのは本当だろうか。

 現状の「オープン系」とは、どうやらマイクロソフト社のアーキテクチャとIP(インターネット・プロトコル)を指しているらしいのだが、システム開発・運用コストを大幅に減少させるという財政上の方策と、地元IT産業の育成を目的とする産業政策は、矛盾するのではあるまいか。

 レガシーシステムと同じ価額で地元IT産業に発注し、余剰を人材の育成に当てるよう強制力を持たせて指導する。場合によっては地元の大学との連携もセッティングする、というような総合的な施策がなければ、結局のところ、地場のIT産業はジリ貧に追い込まれる。親会社の財政基盤をバックにした企業や特定の大手ベンダーと強い関係を持つ企業が生き残るのでは、見方を変えれば“未必の故意”(そうなることが明らかに分かっていて事態を放置するか助長すること)的な新しい官民癒着構造ではないか。

■大型工事も分割すれば非公開

 もうひとつ、電子入札システムの問題としてB氏が指摘するのは、「大型案件の分割発注」である。A市では一定額以上の工事について、地域事業者限定の条件を外す電子入札の公開調達となっている。例えば、1億円の案件を4つに分割して発注すれば、電子入札の対象にならないのだ。

 電子入札に相当することが明らかな案件を、特定の事業者に落札させたい場合、分割発注に切り替える。すると、この案件の座席は電子入札による公開調達から指名入札に移される。

 指名入札にする理由はいろいろある。情報システムでは、アプリケーション開発に必要な技術力や要員数、資金力、長年の実績などを勘案しなければならない。公共工事でもトンネルやダムなど特殊な技術、ノウハウが求められる場合には、同じようなことがあるに違いない。だから事前に相応する事業者を絞り込むことがある、という説明は、一応は成り立つ。

 ところがその一方、電子入札システムをすり抜ける方法として、分割発注が行われることにはならないか。特定の事業者に公共工事を発注するために、分割発注が意図的に仕組まれることはないだろうか。つまるところ、電子入札システムが官製談合の温床の形成を助長しているというようなことは、果たして本当にないのだろうか。

 摘発を受けた福島県、和歌山県、宮崎県、成田市(千葉県)など、それぞれにそれなりの事情がある。そのすべてとはいえないが、電子入札による透明化が生んだ逆効果とはいえないだろうか。