活発な新規参入

シガラミのなさが武器に

 電子自治体プロジェクトで受託系SIerが苦戦している一方で、新規参入が活発だ。苦戦しているのは受託計算センターからスタートした“地域の有力企業”で、住民記録、税、福祉など窓口とバッチ処理が連携する「基幹系」を担っている。一方、新規参入組は独自のソフトウェア製品を前面に掲げ、一点突破を狙う小規模なソフト会社だ。既存リソースの継承などといったシガラミがないことが成約獲得につながる新しい動きがある。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

■受託からサービスモデルへ

 大阪に本社を置くナニワ計算センターは、1978年にデータ入力サービスを主業務に設立された。柳田裕伊社長は、同じ大阪市で産声をあげたコンピューター・サービス(現CSKホールディングス)の創業者・大川功氏や、現在は京都市に本社を置くワールドビジネスセンターの柳田稔氏(ともに故人)などと、「関西のワシらもがんばらなアカン」と言い合ってきた仲だ。

 「大川さんはどんどん先に行ってもうて、うちがいちばん出遅れた」と柳田社長は言う。その出遅れが、結果として電子自治体市場で足がかりとなった。Excelのアドオンアプリケーションとして開発した「Webcel」が、ひょんなことから自治体のセキュリティポリシー・チェックに適用され始めたのだ。

 セキュリティポリシーは策定したものの、職員が順守しているかどうかを、当の自治体が把握できていない。議会や住民から問い合せがあっても、適切に答えることができないのが実情だ。まして情報漏えいが起こった場合、説明義務を果たせないことになる。“仏つくって魂入れず”の状況が続いている。

 総務省が策定した情報セキュリティ・ガイドラインの258項目について、職員が日常の順守状況をExcelのシートに記入していくと、Webcelがその結果を集計して外部の監査法人が評価する。

 サービスと組み合わせたパッケージ「Web Self Check」のユーザーは、約1年で10自治体を超えた。同社では近い将来、住民による政策評価にもつなげたい考えだ。

 「標準システムが30万円という手ごろな価格に設定したので、導入しやすい。しかも外部の監査機関が評価し、弱点や改善点が一目瞭然で分かるのが受けている」

 と東京営業所の端名和志営業部長。データ入力の受託から、ソフトウェアをベースとするサービスモデルへ、質的な転換が進んでいる。

■小さな会社の身軽さ生かす

 新潟県柏崎市のクリプトソフトウエアも「錐もみ式の一点突破」で電子自治体市場に参入した一社だ。柏崎市内の信用金庫に勤めていた柳正栄氏が98年に設立、それまでの経験を生かしてホストコンピュータの帳票データをCDに焼き付け、暗号化するソフトウェア「SERA」を開発した。

 電子自治体プロジェクトはセンターシステムのオープン化、ダウンサイジング化だけではない。それを実現するには原課で使用しているシステムや、まだ電子化されていない図面や地図との連動も図らなければならない。自治体で図面と地図を多用するのは土地台帳の管理部門だ。

 今から4年前、新発田市で困った問題が起こっていた。同市は96年から固定資産税台帳をレーザーディスクで管理していたが、システムのメーカーが「今後、後継機種は作らないことになった」と知らせてきた。ディスクに記録した土地・家屋の図面と路線化の地図、それとホストコンピュータで処理したデータを組み合わせる。そのベースとなるシステムを新たに構築しなければならなくなったのだ。

 税務課で固定資産税係長だった伊藤正仁氏は当時を振り返る。

 「たまたま雑誌を眺めていたら、ある広告が目にとまった。イメージ情報をCDに格納し、暗号化するという。開発したのは同じ新潟県内のソフト会社。とりあえず話を聞いてみよう、と思って連絡をとった」

 それまで付き合っていた大手メーカーや地元の有力な情報サービス会社は、システムの現状分析のために5─6人のチームを送り込んでいた。応札用の積算資料を作るには、現状と原課のニーズを調べなければならない、というのが理由だった。

 ところがクリプトソフトウエアは柳社長が単身でやってきて、その場で簡単なアプリケーションを作ってしまった。片や5─6人、一方は1人。しかもメーカーは納期が半年後、クリプトソフトウエアはプロトタイピングを行いながらなので、納期は短い。おのずからクリプトソフトウエアのシステムは、はるかに安くできる。

 「地縁関係も人脈もない小さな会社では、出張費も営業費もかけられない。手離れのいいシステムを作ることが、当社の至上命令だった」

 と柳社長は言う。

 新発田市の電子システムに採用されたのがきっかけとなって、ユーザーは千葉、埼玉、長野、東京などに広がっている。電子帳票+暗号化技術の一点突破が実ったケースだ。

■地域のタブーを超越

 前回登場の栃木県芳賀町。

 栃木県には県内自治体の大半を牛耳るTKCという存在がある。さらに群馬県にまたがる両毛地区には両毛システムズがあって、情報サービス業界では「栃木、両毛に手を伸ばすのはタブー」とさえいわれる。

 自治体に強みを発揮する日立情報システムズ、インテック、アイネス、日本電子計算といった“全国区”の企業も進出が難しい。

 ところがTKCの牙城である栃木県に、昨年、大きな変化があった。前橋市に本社を置くジーシーシーが“殴りこみ”をかけたのだ。県内でその第1号ユーザーとなったのが芳賀町だった。ジーシーシーは芳賀町をサポートするために宇都宮支店を開設したが、それは栃木攻勢の橋頭堡でもある。

 ジーシーシーの総合行政管理システム「e-SUITE」もTKCの「TASKシリーズ」も、窓口システムとセンター型アウトソーシングを組み合わせる点で共通している。にもかかわらずTKCからのリプレースに成功したのは、「シガラミのなさ」が要因だった。脱レガシーは自治体とITベンダーの関係を再構築することにも結びついている。