視点

全体最適型IT活用への転換を

2007/03/26 16:41

週刊BCN 2007年03月26日vol.1180掲載

 わが国の企業におけるIT化の課題として、業務プロセスの効率化だけに目を奪われ、経営全体の質的な向上につながっていないという問題が指摘されている。なぜ、日本では経営の中枢に踏み込んだITの活用が少ないのだろう。一般的にいえるのは、ITに関する経営トップの認識である。残念ながらIT化を重要な経営課題と認識している経営者が少ない。結果、個別業務の効率化が優先され、逆に経営と直結した全社最適化型のシステム活用を妨げる壁になっている。

 しかし、来年4月から適用が始まる「金融商品取引法」は、企業のIT活用にも大きな変化をもたらすことになりそうだ。ITの果たす役割についても、これまでの部門最適の段階から、情報技術の活用によって全社的な業務プロセスを見直すという新たな対応を求められることになる。いわば日本の企業におけるIT活用が、根本から変わらざるを得ないという段階を迎えているわけである。

 SOX法は一般的には上場企業が対象とされるが、私は中小企業こそがIT活用を考え直す絶好の機会になると思っている。中小企業とはいえ、大企業のグループ会社や取引先は、大企業と同一レベルの内部統制を求められるからだ。何より、自社の事業内容の全体を知り尽くした中小企業の経営トップがその気になりさえすれば、部門の壁に妨げられない全社最適型のシステムを構築することは大企業よりもはるかに容易であるからだ。

 最近のITコーディネーターによる活動事例でも、中小企業の経営者が前面に乗り出してICTによる経営革新に取り組むケースが増えている。低コストの全社システムが構築可能な現在では、中小企業だからIT化が困難だという理由はない。

 むしろこうした経営者の思いをシステムに反映するためには、ITコーディネーターとベンダーの双方がうまくコラボレートし、顧客の業種、業務内容に精通したコンサルティング能力と、プロジェクトマネジメントおよびシステム開発の技量を最大限発揮しなければならない。ITコーディネーター協会は、経営者の立場に立ってITによる経営革新を実現するためのプロセスガイドラインを作成してきた。中小企業を含めた企業経営が根本的な進化を求められている今こそ、こうしたノウハウを生かした経営革新を進めるための絶好のチャンスであるといえるだろう。
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