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<ITから社会を映す NEWSを追う>ITは「票」にならない!?

2007/05/07 16:04

週刊BCN 2007年05月07日vol.1185掲載

IT先進国の選挙の実態

開票もIT活用の道は遠い

 4月8日、22日に分けて、統一地方選挙が行われた。今回から地方行政首長選挙でマニフェスト(政権公約)を印刷したビラの配布が可能になり、開票時間短縮への取り組みが熱を帯びたのは、なるほど前向きな一歩には違いない。自民・民主両党は与野党対決の構図を煽ったが、国政と地域行政は別という意識の現われか、投票率アップにさほど結びつかなかった。そうしたなか、電子マニフェストは見送られ、電子投票システムはどこかに忘れ去られてしまった。「ITは票にならない」で、何がIT新改革戦略か。

■マニフェストに「IT」なし

 4月の統一地方選挙では、参院補選、知事選、政令指定都市長選、市区町村議員選など、全国で計約1100の選挙が一斉に実施された。

 今回から、地域行政首長選でマニフェストを印刷したビラの配布ができるようになった。今年4月に公職選挙法が改正され、知事選では立候補者1人当たり10─30万枚、市区町選は1万6000枚、町村選では5000枚だ。有権者数が1000万人を超える東京都知事選で30万枚では焼け石に水、当選したとたんに居直るようではマニフェストは羊頭狗肉という批判もある。

 羊頭狗肉なのは印刷されたマニフェストばかりではない。政府が重点政策として推進しているIT新改革戦略が、今回の統一地方選にほとんど反映されていないのだ。まず、マニフェストそのものに「IT」の文字がない。

 83人の“小泉チルドレン”を生んだ2005年の衆院選挙の際、「IT」関連の文言を比較的多く盛り込んだのは、やはり自民党と民主党だった。例えば自民党は「ITによる行政改革と行政職員の3割以上削減」「電子申請の利用拡大」「2007年度末の電子カルテ普及率60%以上」「教育機関の校内LAN整備」「情報セキュリティ基盤技術の開発」「サイバー犯罪条約発効に伴う国内法の整備」「情報漏えいに対する罰則の強化」などを掲げた。

 対する民主党が盛り込んだのは、「ハイテク分野の研究開発に評価法制度」「ITを活用した選挙運動」「国政選挙への電子投票システムの導入」「日本版FCCの創設」「住民基本台帳ネットワークの見直し」などだった。関連して「知的財産権のフェアユース規定を創設する」とした。

 こういった項目を地方選に持ち出しても「票に結びつかない」という判断もあっただろうが、知事選レベルでもほとんど触れられなかった。強いていえば東京都知事選で浅野史郎候補が「情報公開」を訴えた程度。ITに無関心、もしくはITの重要性を理解していない、あるいはITリテラシーが低い候補者では、インターネットとケイタイの時代に相応しいかどうか。

■IT選挙運動もダメ

 今年2月、東京・日比谷の日本記者クラブで行われた会合。挨拶に立った自民党衆院議員・逢沢一郎氏は冒頭、「IT化を推進し、健全な情報化社会を実現する国会議員の立場で言うのも変な話だが、インターネットの活用には、今後、注意してまいりたい」と述べ、会場の爆笑を誘った。岡山県の衆院補選の選挙期間中、地元の事務所が支援者に発信した応援メールが公選法に抵触するとして注意を受けたことを自ら揶揄したのだ。

 「公選法が改正されても、ITという便利な手段を選挙運動に使えないのは残念」

 同議員が所属する自民党は、「インターネットを使った選挙運動に関するワーキングチーム」がネットによる選挙運動の部分的解禁を提言する最終報告書を公表している。にもかかわらず、公選法では議員が自身のホームページやブログを通じて日常の政治活動や主張を訴えることはできても、選挙が始まると更新することができない。メールマガジンの発行も禁止されている。

 「インターネットを使えなかったり、ホームページやブログを開設していない立候補者もいる」「誹謗中傷の書き込みを防止できない」というのが理由。紙に印刷したマニフェストを街角で配るのは大丈夫だが、電子メディアはダメという状況は、IT先進国といえるかどうか。

■開票は変わらず人海戦術

 選挙戦と並んでNHKや一般紙が報じたのは、各地の選管が取り組んだ開票作業を短縮する工夫だった。早稲田大学マニフェスト研究所(北川正恭所長、前三重県知事)によると、今回の統一地方選挙が実施される約1750市町村のうち、選挙前に開票時間を短縮する取り組みを示したのは約35%に当たる600市町村だった。広島県三次市は市議選の開票にかかる時間の目標を「30分」に設定、作業員が腰をかがめずに作業できるように開票台の高さを調整したり、候補者別の仕分けにイチゴを入れるパックを採用するアイデアを採用した。

 また開票台ごとの進捗に応じて作業員の配置を調整し、これまで開票後にまとめて処理していた不明票を、発生するつどに判定するようにした。その結果、約3万7000票の開票を完了するのに、要員を170人から70人減らしたうえ、目標の30分を切ることに成功した。開票の経費は100万円ほど圧縮されたというが、目標達成のために行ったリハーサルの費用を考えると、果たしてどうだったか。

 人海戦術に頼る現行の開票作業をいかに効率よく、経済的に行うかも重要だが、実用化された電子投票システムをもっと積極的に採用していい。たしかにこれまで行われた電子投票13件のうち9件でトラブルが発生し、岐阜県可児市の市議選(03年7月)は再選挙という事態となった。電子投票システムの採用を検討していた1600の市町村の熱が一気に冷め、今回の統一地方選で採用されたのは青森県六戸町議選と宮城県白井市議選の2件だけ。これが行政分野におけるIT活用の実態というのは、何ともわびしい。

ズームアップ
環境省は電子マニフェストを推奨
 

 インターネットが一般家庭にも普及し始めたのは1995年。情報通信白書によると、国内におけるインターネット利用者は約8000万人に達し、ブログを開設している小学生も少なくない。
 「紙のビラと電子メディアとを比べると、ビラは受け取った人しか読むことができず、印刷できる枚数も制限されている。電子メディアなら有権者が自由にアクセスし、立候補者の主張を詳細に検討できる。現行の公選法は有権者が立候補者の政見や人柄を知る機会を阻害している」という指摘がある。
 選挙期間中の土日になると、有権者の自宅にかかってくる「○○候補をよろしく」という電話は迷惑だが、有権者が自分の意思でネットにアクセスするのは自由。有権者の視点が公選法に欠けているのだ。
 ただ、中央省庁にも電子マニフェストを推奨する動きがある。先陣を切るのは環境省。紙の印刷物は森林資源、石油資源を消費する。また、選挙後には大量のゴミを発生させることにもなる。そこで「地球温暖化防止策“チーム・マイナス6%”キャンペーンの観点から、電子マニフェストを」と提唱している。
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