ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映す NEWSを追う>グーグルにスパイウェア!?

2007/06/18 16:04

週刊BCN 2007年06月18日vol.1191掲載

米国で異論・反論の渦

GIS市場に価格破壊起こす

 インターネット検索サービスの最大手に成長したグーグル。中国市場に進出するに際して中国政府と密約を結んだとされ、無償ダウンロードの検索ソフトにスパイウェア紛いの機能を組み込んでいると指摘されるなど、マイナスイメージの話題が尽きない。その半面、グーグルマップやグーグルアースの登場が地理空間情報システム(GIS:Geographical Information System)の市場に価格破壊を起こし、予算がないために諦めていたユーザーを掘り起こすプラス面の効果もある。グーグルにからむ最近の話題を追った。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 ウィニーは「大量データの不正流出につながる」と危険視されるが、ソフトウェアそのものが悪さをするわけではない。ところがスパイウェアは、インターネットに接続されているパソコンに記録されているメールアドレスやクレジット番号、パスワードなどを発信元に送り出す。いつの間にか入り込み、ユーザーが知らないうちに悪さを働くのでスパイの名が付いた。

■デル社と利益山分けの密約?

 グーグルが槍玉にあがったのは今年5月。アメリカのインターネット・コミュニティ「オープンDNS」の会長であるデビッド・ウィルヴィッチ氏が指摘したところによると、グーグルは昨年、デルのパソコンに検索ソフト「グーグル・デスクトップサーチ」を標準でバンドルすることで提携したが、そのとき両社間で密約を結んだという。デル製パソコンにバンドルしたグーグル検索ソフトが自動的に商品広告サイトに接続し、そのアフィリエイト広告収入を両社で山分けすることになっている、というのが同氏が指摘する疑惑だ。

 通常、ユーザーがURLの「.com」を省略したり、スペルを間違って入力した場合、最も類似値が高いサイトにつながるか、「相当するサイトが見当たらない」という表示が返ってくる。ところがデル製パソコンのデスクトップサーチは特定企業の広告サイトにつながるようになっていて、アクセスがあるたびにグーグルとデルに広告収入がもたらされるというのだ。

 ユーザーがアクセスしたURL情報を収集・分析して、それを経済価値に転換するのが検索サイトのビジネスモデルだが、問題はその機能を削除できない仕組みになっていること。パソコンの設定を変更しない限りURLの省略や誤入力のたびにユーザーが両社に利益をもたらすことになる。そうしている間に、個人のアクションがすべてグーグルに把握され、最後にはグーグルが世界を支配することになる、とオープンDNSは懸念を表明している。

 この話題はインターネット・コミュニティやオープンソース・ソフトウェア・コミュニティに広まり、グーグルへの反感が強まっているものの、一般ユーザーは巨大サービス・サイトに成長したグーグルへのポジティブキャンペーンと見る向きが強い。

 そればかりか、同情論まで出始めた。というのはスパイウェアやコンピュータウイルスの作成者が、グーグル・デスクトップサーチをマイクロソフトWindowsにかわる新しいターゲットにしつつあるためだ。今後もグーグルへの反感、異論を背景に、さまざまな情報が飛び交うことになりそうだ。

■GISの市場拡大に寄与

 一方、グーグルによって新しい市場が広がることを歓迎する動きもある。インターネットで無償提供されているグーグルアースが、GISシステムの価格破壊を引き起こしている。通常、GISシステムの基本価格は1セット2000万円から3000万円、それをカスタマイズしユーザー保有の情報を階層化すると1億円を超えることも珍しくない。それが一気に100万円単位に下落している。

 日本で先陣を切るのは横浜市に本社を置くオークニーというGIS専門会社。昨年末、国際標準規格に準拠した「Map Server 2007」を9万9800円で発売したところ、「GISを導入したいが予算がない」と導入を諦めていた市町村が相次いで採用している。「GIS業界の常識は崩れ去った」(森亮社長)という。

 Map Server 2007は、オープンソース・ソフトウェア(OSS)として提供されているWebマッピングエンジン「Map Server」と空間データベースのPostGIS/PostgreSQLをベースにしている。地図をスクロールする地図フレームワーク、様々なデータ形式を取り扱える地理空間データ・アクセスツール、サンプルアプリケーション、サンプル地図データ、サンプル地図設定ファイル等をワンパッケージにまとめてある。

 そもそもは、米ミネソタ州立大学が米航空宇宙局(NASA)の支援で開発した森林資源管理用の地図情報システムだった。インターネットで地図情報を配信できるようにしたのが最大の特徴で、ミネソタ大学が2004年にOSSとして公開した。日本ではオークニーが真っ先に開発コミュニティに参加、独立行政法人情報処理推進機構のプロジェクトにも採用されている。

 「04年にオンタリオ州オタワで開かれたユーザーミーティングに参加したのは200人足らずだった。翌年は倍の350人、昨年のスイス・ローゼンヌ大会は約600人と、コミュニティが広がっている」とオークニーの衛藤誓氏が説明する。

 この動きに刺激されて、オートデスク社もOSSでWeb型GIS「Map Guide」を発表、昨年2月に国際機関としてOSGeo財団が発足した。OSSのGISシステムを提供している8つの組織が参加し、ダブルバイトへの対応や地理空間情報を用いたアプリケーションの提案などを共同で行うことになっている。

 「Map Serverは国内ですでに250システムが利用され、商用版は年15システムほど導入されている」という。ユーザーには市町村ばかりでなく、国土交通省を筆頭に防災科学研究所、宇宙航空技術開発機構など国の機関も入っている。こちらは「グーグルさまさま」といったところだ。

ズームアップ
用途広がるGIS
 

 二次元の地図情報システムをベースに、高さや奥行き、深さなど三次元の位置情報を付加する。属性情報として建物や施設、鉄道、道路、信号、ガス管や下水道など地下埋設物を階層化して記録し、立体的な空間情報が生成される。
 それによって、例えば山間部にダムを建設する場合、あらかじめダム完成後の貯水量を算出したり、放水による流域への影響などを予測できるようになる。
 最近は都市工学や考古学などにも応用され始めた。
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