ITでビジネスモデル発信

実証事業に5億6000万円

 在日米軍の再編で渦中にある沖縄・普天間飛行場移転問題。かねてから跡地の利用策として大規模インターネット・データセンター(iDC)とソフトウェア開発センターが候補にあがっていた。移転先が決まっていないのに先走りではないか、との慎重な意見もあったが、このほど内閣府が実証事業を決定、現地では「沖縄からITのビジネスモデルを発信できる」と期待が高まっている。なぜ沖縄にITなのか。(中尾英二(評論家)●取材/文)

■地震がないことに着目

 このほど実施が決まったのは「地域活性型先導的情報通信産業モデル実証事業」。内閣府の沖縄総合事務局経済産業部が中心となって昨年春から構想を練ってきたもので、「沖縄の強みや魅力を生かし、民間主導で新しいIT産業のビジネスモデルを構築する」とうたっている。文言にはなっていないが、普天間基地の跡地に大規模なセンターを建設し、日本全国やアジア諸国に情報を発信するのがねらいだ。

 沖縄は太平洋戦争末期に焦土と化したあげく、戦後は全域の約3割が在日米軍に提供され、これまで米兵による暴行事件や訓練機の墜落、射撃訓練中の事故といった不幸を背負ってきた。半面、米軍基地に依存する雇用は60万人ともいわれる。それほど大きな経済効果を生んできた米軍基地が移転したあと、地域の雇用と経済をどう維持・発展させるかが難問だった。

 内閣府が着目したのは、沖縄に大きな地震が発生しないことだった。NTTグループをはじめ、ビックニイウス、日本ユニシス、日本オラクルといった民間企業がこの10年、相次いで浦添市などにiDCやコールセンターを開設したのも、地震の心配がないことが大きな理由だった。加えて電子自治体システムで浦添市や名護市、那覇市などがオープンソースソフトウェア(OSS)を採用するなど、官民が一体のIT推進体制を築いている。


■iDCはNECが受注

 計画によると、今回の実証事業はiDCとオフショア開発センターの2本が柱。「データセンター整備モデル実証事業」には約1億円が割り振られ、NECがプライムで受注、沖縄電力の子会社であるファーストライディングテクノロジー、NECソフト沖縄、独立行政法人産業技術総合研究所がコンソーシアムを組む。

 実証項目は①平常時のサービスと災害時のサービス、②同時被災におけるリスク分散、③被災したユーザーに対する迅速な復旧支援──の3つで、日本本土に点在する複数のデータセンターを高速・大容量回線で結んでグリッドシステムを構築する。リスク管理と事業継続計画(BCP)に力点を置くのが特徴だ。

 一方、「オフショア開発センター整備モデル実証事業」は、地元のIT企業が東京や大阪などから受注したソフト開発案件を、共同センターに設置する環境開発を共有し、より効率的な分散開発を行おうというものだ。標準的でセキュリティレベルが高いトラステッドネットワークで開発環境を共有するという。

 予算規模は約4億6000万円で、プライム受注は地元のおきぎんエス・ピー・オー(SPO)、これにインターフュージョンコンサルティングがコンソーシアムを組む。センターの設置場所は、当面は沖縄銀行グループが浦添市内に保有するデータセンターを活用することになりそうだ。

 データセンターとオフショア開発センターを合わせた実証事業の総額は、5億6000万円になる。

■OSSで開発環境

 オフショア開発センターの実証事業を受注したおきぎんSPOは、浦添市の電子自治体をOSSで構築した実績を持つ。同社でOSSプロジェクトの旗振り役となっている砂辺孝夫氏は、かつてデータエントリーサービスの電算(東京・銀座)に勤務していたが、データエントリーマシンがUNIXに移行したことから「気がついたらオープン系のエンジニアになっていた」と苦笑する。

 電算の取引先だったのが伊藤忠テクノサイエンス(現・伊藤忠テクノソリューションズ)だったことからサン・マイクロシステムズと親しくなり、電子自治体システムにシンクライアントを提唱した。今回のプロジェクトでも分散開発環境にシンクライアントを提案するとみられている。

 「まず沖縄をOSSアイランドにする。次にここから本土やアジア諸国にOSSを発信するのが夢」

 と砂辺氏は語る。また浦添市情報政策課の上原雅彦課長は、

 「当面、市として何か支援策を打つわけではないが、オフショア開発センターが軌道に乗ったあかつきには、市町村向けの総合行政基盤システムを全国に発信することも可能になる」

 と期待を寄せる。

 地元自治体の沖縄県は、かねてから経済特区を目指して官産学共同の「沖縄クラスター計画」を推進してきた。地元紙の沖縄タイムスは昨年7月、「脱基地のシナリオ」と題して、地域振興策で入居した企業は21社だが、新たに生み出された雇用は500人に満ちていないと指摘している。またコールセンターは人さえいればいいが、高度な知識が求められるサポートセンターとなると、沖縄には相応しい人材がいないとも指摘している。

 「ウワモノ(建物)を作って終わり、ということでは、長期レンジの産業振興、雇用確保につながらない。県にも国にもそのように申し入れている」

 1985年から5年間、通産省(当時)主導で実施されたソフトウェア生産工業化システム事業の二の舞にならないことを願うばかりだ。

ズームアップ
沖縄の米国施設
 

 沖縄県には普天間飛行場のほか、極東最大規模の嘉手納飛行場、同弾薬庫、北部射爆場、通信施設、補給施設、港湾施設などが集中、米軍関係者の居住区(キャンプ)を含めると計38施設に及ぶ。総面積は2万3753ヘクタールで、沖縄県全面積の11%、沖縄本島の19%を占めている。
 軍人・軍属約5万人が駐留しているが、米極東軍の再編に伴って、空軍司令部を神奈川県座間に、沖縄の空軍をグアム島に移設する計画が進んでいる。ただし、地代1900億円の補填が大きな課題となっている。