改正遺失物法が施行へ

民間の負担増は確実

 昨年6月、あれこれのどさくさに紛れて遺失物法改正案が国会を通過した。明治32年(1899年)に成立した法律で、一部が改定されたのも52年前。落し物をどのように管理し、落とし主に戻すかを定めた法律だが、今回の改正は保管期間を6か月から3か月に短縮、これまで警察の責任範囲だった遺失物管理業務を民間に移す。「民間にできることは民間に」の小泉改革の産物だが、早くも現場から「絵に描いた餅にならないか」の指摘があがっている。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 1年間に届け出られる落し物、忘れ物はおよそ1000万点にのぼる。

 落し物や忘れ物は、拾得者が警察に届けるのが原則だが、通常は拾得場所の管理者に届け出る。そこで遺失物が置かれていた状況や発見者の氏名、住所を尋ね、さらに遺失物の特徴を台帳に記録する。遺失物1000万点の8割は駅や空港、電車やタクシー、デパートや劇場、ホテルなど、不特定多数が利用する準パブリックエリアだ。

 こうした場所の管理者は独自の規定で数日保管したのち、警察に届け出る。この時点で法律でいう「遺失物」になるわけだ。「遺失物」になった落し物、忘れ物は法律に従って元の持ち主に返還され、6か月が経過しても持ち主が現れない場合は拾得者に所有権が移る。これが従来の遺失物法の規定だった。

■警察の保管責任を軽減

 改正遺失物法では、発見場所の管理者が台帳に記録した時点で「遺失物」となる。情報は都道府県ごとに集約され、インターネットで公開する。遺失物の形状を写真で表示するので、台帳に文章で色や模様を表現するより正確になる。なるほど「青」といっても、水色から紺まで幅広い。

 保管期間は6か月を3か月に短縮するが、傘や衣類、自転車などは2週間で処分できる。多額の現金やクレジットカード(それらが入った財布など)は全国どこからでも検索できるようにする。またパソコンや携帯電話などは所有者が現れなくても、拾得者に権利が移らない。中に個人情報などが記録されている可能性があること、ネットやクレジットカードの不正利用につながる可能性があるためだ。

 特に携帯電話はサービス会社に持ち主の情報が記録されていることから、警察が調査して持ち主を探し出す。同法改正を機に、携帯電話サービス会社には警察からの照会に回答する義務が課せられた。

 法改正で話題になったのは生き物の扱い。法律ができた1899年には想定外、一部改正の1955年でもほとんど実例がなかった。ところが、最近は小型犬、ネコ、カメレオン、小鳥など、さながら小動物園状態。法律上は「逸走の家畜」として警察が飼育していたが、改正では法律適用外となり、最寄りの動物愛護センターなどに移管できるようになった。これで警察の保管責任は大幅に軽減される。

■システムは導入したが…

 2004年4月に保谷市と田無市が合併して誕生した東京都西東京市。武蔵野の面影を伝える雑木林が残るベッドタウンだ。以前から駅前や商店街などの通行妨害となっている放置自転車問題に取り組んできた。

 「スーパーの店頭で26インチの自転車が9800円とかで売られている。パンクしたら買い替えればいい。盗まれても警察に届けない。放置自転車が急増したのは、自転車が使い捨てになったからだ」

 と言うのは西東京市の交通計画課・児山政昭係長だ。

 道路上の妨害物であり遺失物なのだから、旧田無市は警察の所管だと考えていた。しかし警察は、市民生活との観点から市の仕事だという。押し問答と責任のなすりあいをしていても、自転車の問題は解決しない。

 そこで合併の2年前、旧田無市は富士通エフ・アイ・ピーが開発した放置自転車管理システムを導入、西東京市になってから旧保谷市エリアにも適用した。駐輪場を整備し、利用規則を定め、それに違反する自転車に「不正駐輪」のシールを貼った。それでも駐輪したままの自転車を「放置自転車」と判断し、強制撤去するようにした。

 ただ、問題があった。当初の予定では、保管所で発行したバーコードで管理するはずだった。

 「ところが駐輪場、保管所で雇用する高齢者が端末を操作できない。結局、紙の台帳とコンピュータの二重で管理することになった」という。

 計画したほどの効率化は実現できなかったが、年間6000台を超える放置自転車の管理が一元化でき、警察からの問い合わせにも迅速に対応できるようになったので、メリットは大きい。ただしそれは、対象が自転車とオートバイに限られているからだ。

■誰が責任をとるのか

 某大手スーパーは西東京市が導入した放置自転車管理システムを改良した遺失物管理システムを導入することを検討している。当面は関西の5店舗で試験導入する考えだ。

 だが、運用をめぐって問題が出た。駐車場の管理、建物の保全、開店中の警備などは、専門会社にアウトソーシングしている。

 「システムの運用を警備会社にやってもらうのが一番いいが、アルバイトの中高年者がキーボードを叩いてくれるかどうか」と企画担当者は心配する。

 それだけでなく、本来の持ち主であることをどうやって確認するのか、という問題が浮上した。

 「警察じゃないので、われわれには捜査権がない。貴重品や現金の場合、確認のためにあれこれ尋ねざるを得ない。そうするとお客様が気分を害されるのではないか。また、本来の持ち主ではない人に渡してしまったら、誰が責任をとるのかという問題もある」

 警察の手間とコストを下げるために、民間の負担が増大する。違反駐車の取り締りで民間の監視員とドライバーの間で暴力沙汰が発生したこともある。遺失物法の改正が新しいトラブルの火種となるか、それとも改正法そのものが絵に描いた餅となるか。改正法の施行は今年末に迫っている。

ズームアップ
課題深まる自転車問題
 

 エコロジー意識の高まりや健康志向もあって、自転車が脚光を浴びている。それに伴って自転車の盗難、山林や河川への不法廃棄が増加、さらに自転車が走れるのは車道か歩道かをめぐる問題など、市町村や警察にとって大きな課題になりつつある。西東京市の場合、「放置」と判断して撤去した自転車やオートバイは、6か月を過ぎると市内の自転車販売店が有償で引き取って中古車として販売、もしくは再生して海外に輸出するか廃棄の3つの方法で処分される。