北海道内のIT産業は、首都圏、中部など全国のIT集積地に比べ、成長が著しい。しかし、道内IT需要は、夕張市の財政破綻などにみるように官需が期待薄で、民需もIT投資に消極的な中小企業が乱立、どのシステムプロバイダも攻めあぐねている。これまでは、市場を求め東京の大手SIベンダーの「下請け」に甘んじてきたが、低価格要求の高い道内企業を相手に鍛えられた“道内発”のITシステムが、着々と全国へ進出している。道内の行政とIT業界、IT以外の業界が一体になり、IT産業を盛り上げようと必死だ。IT集積地「サッポロバレー」を抱える北海道は今、大きな転換点を迎えている。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)

“道内発IT”東京へ進出
小売業など、特化分野開拓


〈連載開始にあたって〉
 IT集積地にある地場の独立系システムプロバイダを取材した連載「地域を駆けるシステムプロバイダ~列島IT事情~」を開始します(毎月2回掲載)。北海道を皮切りに東北、中部などを巡回し、今後のIT産業の発展について考察します。

■IT+トマト栽培に挑戦 1次産業へ食い込めるか?

 「北海道らしい特色のあるITビジネスを創出する」──。受託ソフトウェア開発やネットワーク通信事業などを手がける、つうけんアドバンスシステムズ(石井茂喜社長)は4-5年前から、道の基幹産業である農業で一旗揚げるべく新プロジェクトをスタートした。米エシェロン社の制御ネットワーク技術「LONWORKS(ロンワークス)」を利用して、栗山町の農場を借りて温室水耕栽培による「トマト育成」の実証実験を進めてきた。

 温度センサーの値で温室側面のビニールを上げ下げして温度と作物の生育関係を調べ、「均質なトマトを安定的に育てることに成功した」と、プロジェクトリーダーの三品考司・サービスソリューション事業部担当課長は満足げだ。冬が厳しいこの地で、味覚を均質に保ち、一年中高品質のトマトを栽培するのは困難だ。しかし、「ITを使えば、これを乗り越えられる」(同)と、データ解析を詰め、実用化に向け本格的に舵を切っている。

 道内の第1次産業(農業、林業、水産業)は、総生産の産業別構成比で3%強を占める基幹産業。北海道では数年前から、「第1次産業+IT」として、IT利活用を推進する動きが活発化。行政機関やIT産業団体らが一体となり、食品トレーサビリティ(履歴追跡)関連でRFID(ICタグ)の活用など新システムの創出を模索してきた。ただ、「農家のお爺ちゃんがデータ入力にパソコンのキーを叩くことは難しかった」と、あるITベンダー幹部。IT産業の底上げまでには至っていない。

 つうけんアドバンスシステムズの「トマト育成」は、そんな実情にも着眼した。トマト栽培に関連して「EC(電子商取引)」「コミュニティ」の2つのプロジェクトを並行して動かす。三品・担当課長は「生産から販売まで面倒をみる」と、新鮮野菜のコミュニティサイトを立ち上げ、ネット販売するまでを含めたシステム提案を計画中。「お金にならない」と、引き気味のIT産業界で、先頭に立ち「第1次産業+IT」に果敢に挑んでいる。

■“優秀な下請け”に東京案件で、ノウハウ蓄積

 北海道IT推進協会(会長=安田經・HBA会長)が調べた「北海道ITレポート2006」によると、05年の道内IT産業売上高は、前年比約2%増の3243億円。このうち、道内で得た売上高は65%で、システムプロバイダの大半は首都圏から案件を獲得し、生計を立てている。

 道外同業他社から請け負う顧客の売上高比率も3割に達し、「下請け構造」から脱却できていない。それでも、安田会長は「道内にIT関連の官需・民需ともに少ない以上、東京からの下請けに対応するのはやむを得ない。“優秀な下請け”として案件を請けつつ、ノウハウを蓄積する」と、下請けの地位に甘んじることなく現状を“肥やし”にして、成長路線を描こうとしているという。

 「北海道から東京へ、そして世界へ」──最近、道内システムプロバイダからは合い言葉のように、このフレーズを聞く。日本テレコムからスピンアウトした技術者で05年に設立したベンチャー企業のユーザーサイド(那須伸二社長)は、道内小売業などの導入実績をもとに、全国へ事業拡大するNIerの1社だ。IT技術者が不足する中小企業を中心に従量課金制の「データセンター・サービス」などを提供。ネットワーク機器の常時監視やバックアップ媒体の交換、ファイアウォールの運用管理──など、低コストで“痒いところまで手が届く”事業を遠隔で展開している。

 ユーザーサイドは道内資本で全国展開する某ホームセンターのネットワーク機器の導入・運用を担当。那須社長は「北海道は店舗が遠隔地に点在し、システム管理にコストがかかる。人口密度も少なく集客も大変。厳しい環境下で実績を上げたシステムは全国に通用する」と、「下請け」を一切せず「元請け」として、中小の小売業を中心に営業を強化している。

■ニッチ市場で全国展開 札幌市、中国進出を計画

 旭川市にあるSIerのコンピューター・ビジネス(関仁社長)は、道内を中心に全国のバス会社12社へ運行管理や時刻表、車両成績、料金管理などバス業システム「BUS SYSTEM」など“ニッチ市場”向け製品を展開している。バス会社は“斜陽産業”ではあるが、関社長は「大幅な収益増が難しい産業界は、コスト削減を重視している。引き合いが多く競合が少ない」と、道内で鍛えられたシステムが全国で受けているという。

 東京進出でいえば、同じ旭川市に本拠を置く地図作成会社、北海道地図(石崎隆久社長)は先駆的存在だ。パイオニアのカーナビや地図ソフト会社に地図データベースをOEM供給するなど地図コンテンツの作成・加工などが高く評価されている。同社の朝日守・取締役副会長は「売上高の7割は東京の案件が占める。道内の自治体案件は減っている」と、旭川に足場を置き、東京向けの比重を高める理由を、こう説明する。

 札幌市の産業企画課では、道内や首都圏のIT需要獲得に加え、中国にIT市場を広げる計画。まずは、道内に多くある低コスト導入が可能な医療系システムなどを輸出する考えだ。