地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情

<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>東北編(下)

2007/09/03 20:37

週刊BCN 2007年09月03日vol.1201掲載

 東北地域の地場ベンダーが最大の課題に掲げるのは、受託開発の構造から抜け出すこと。長い間、情報サービス産業の中核ビジネスになっているだけに、ビジネスモデルの変革には相当な時間を要することが予想される。しかし、第3セクターによる人材教育に向けた取り組み、関連団体の幹部が新旧交代するなど新しい風を吹き込むことで、何とか産業構造を変えようとする姿が東北地域にはみられる。(佐相彰彦●取材/文)

受託開発からの脱却が課題
若手の台頭で新ビジネスモデルも

■学生向けに訓練を開始 底辺から人材育成図る

 仙台・榴ヶ岡にオフィスを構える仙台ソフトウェアセンター(NAViS)。自治体の“第3セクター”という位置づけの同センターが、人材育成の本格化を図っている。学生を対象に技術訓練を開催。NAViSの広島和夫常務取締役は、「学生が高度な専門教育を受けられる環境の整備で東北地域の情報サービス産業の活性化につながるのではないか」とみている。

 技術訓練で特徴的なのは、地場ベンダーの技術者などが講師を務めることだ。基本的な技術を教えるだけでなく、顧客ロールプレイングやプロジェクト計画などソフト開発やシステム構築に役立つ内容を講義。学生が卒業して企業に入社した際、実社会で即戦力になることを目指すというわけだ。

 これまでは、同センターを中心に自治体や地場ベンダーなどの参加で発足した「東北テクノロジーセンター・コンソーシアム」で、地場の中小ベンダーに対する経営や技術などの研修を積極的に進めていた。講座は、ヒューマンスキルやITコンサルタント、プロジェクトマネジメント、ソリューション企画、アプリケーション開発、システム管理などをテーマに100種類以上が用意されており、経営者をはじめとして技術者やシステム管理者などが数多く受講した。これは、地場ベンダーの企業の自立化に直結することが狙いだ。また、ユーザー企業へのIT化に関する支援も積極的に進めてきた。こうした取り組みに加え、「ITレベルを底辺から向上させることも必要と判断した」。さらに、地場ベンダーを講師に充てることで、講師が携わっている業務に学生が魅力を感じることも期待される。学生を優秀な人材に育て、地場ベンダーに就職させるという「ほかの地域に流出させない」意味合いが強いようだ。

■“新しい風”を吹き込む“新旧交代”時代に突入

 優秀な人材が集まれば、受託開発などを中心に行っていた東北地域が、これまで強かった組み込み系ソフト開発を生かしながら新しい製品・サービスを生み出す可能性がある。しかも、若い人材が東北地域の新しいビジネスモデルを構築するということも出てくるかもしれない。

 こうした理由から、NAViSでは学生を対象とした人材育成に力を注ぎ始めたわけだが、地場ベンダーで構成される関連団体のなかでも若い人材を起用するという動きが出てきた。宮城県情報サービス産業協会(MISA)では、今年度(08年3月期)から若い経営者を役員として多く就任させている。サイエンティアの荒井秀和社長がMISA副会長として参画したのが代表例だ。また、会員企業が新しい市場を開拓したり、開拓に向けた事業を創造できるように立ち上げた「事業共創委員会」の委員長には、バイスリープロジェクツの菅野直代表取締役が就いている。

 龍田勝利・MISA会長(テクノ・マインド会長)は、「“新しい風”を吹き込むことで、宮城県の情報サービス産業を拡大させたい」考えを示す。というのも、「東北経済は、緩やかながら情報改善に向かっているといわれているが、なかなか実感が湧かない。地場民需が景気回復に伴っていない状況であるため、地場ベンダーにとっては従来からの大手下請けに頼らざるを得ない」のが実情だからだ。「これまでになかった考え方や観点を協会に入れ込んでいきたい」。そういったことから、龍田会長自身も今年度で(MISAの)会長職を降りる模様だ。

 MISAの役員から退き、今後は参与という立場で支援に回る意向を示した人物もいる。アート・システムの江 正彰社長だ。江 社長はソフト開発の黎明期から業界の活性化に向けて力を注いできた。地場ベンダーに呼びかけ、共同出資会社の「ハイパーソリューション」を立ち上げることで、首都圏ベンダーに負けない基盤を作ることに注力してきた。宮城県の情報サービス産業が発展してきたなかで、中核人物の1人として動いてきたわけだが、「もう引退する年だし、でしゃばるのはよくない。業界が良い方向に進むため、私がこれまで経験してきたことをアドバイスできればと考えている」と語る。宮城県は、今まさに“新旧交代”の時代が到来しているということだ。

■ベンダーも新分野に着手 地域全体の連携も必要か

 ベンダー側でも、新しいビジネスに着手しようと懸命になっている。テクノ・マインドは、自社IDCを活用したSaaS(サービス型ソフトウェア)を手がけようと模索している。「主力のシステム開発に加え、事業の柱を増やすことが重要。しかもIDCのスペースを有効利用する」(龍田会長)。NAViSは、「OSSが自治体や地域IT企業、ユーザー企業などのコミュニティを結成させる決め手の1つ」(広島常務)とし、「東北OSS利活用検討会」を立ち上げた。将来的には、OSSをベースとしたシステム開発などを支援するためのプラットフォームの構築を進めるほか、「ビジネスマッチングが出てくるような広がりを期待する」という。

 東北地域では、情報サービス産業が「変わらなければならない」という意識が高まっているのは間違いない。以前は、自治体がIT集積地として仙台駅東口からNAViSまで続く宮城野通りを「ITアベニュー」と称してITベンチャーの集積するプロジェクトを進め、情報サービス産業の活性化に積極的だった。しかし、プロジェクトが06年3月に終了したこともあり、「今は、あの一画に特にITベンダーが集積しているわけではない」(自治体関係者)が共通の見方。しかも、最近では東北地域でITベンチャーの設立が少ないのも事実だ。こうした状況のなか、東北地域の情報サービス産業を活性化させるためには地場の各ベンダーが新しいビジネスモデルを構築、そのための支援を自治体や関連団体が実施することや、ベンダー同士が連携できる環境作りなどが必要になってくるといえそうだ。

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