ITジュニアの群像

3回目を迎えた BCN ITジュニア賞 2008

2008/01/29 16:18

「BCN AWARD 2008」の会場で授賞式が開かれる

 技術立国日本の次代を担う若い世代にものづくりの情熱を伝承し、IT産業に優秀な人材を招き入れることを趣旨として創設された「BCN ITジュニア賞2008」が、1月25日、東京・港区の青山ダイヤモンドホールにおいて開催された。今回で3回目のITジュニア賞は、NPO法人「ITジュニア育成交流協会」(高山由理事長)の推薦を受け、高等学校2チーム・1名、高等専門学校2チームを選定。さらに、同協会より高等専門学校1チームと専門学校1チームが「ITジュニア育成交流協会高山理事長賞」に選ばれ、IT業界のトップベンダーが集う「BCN AWARD 2008」の会場で表彰式が行われた。ここでは、受賞対象となった作品の概要とメンバーたちの活動ぶりの一端を紹介しよう。(佐々木潔●取材/文)

BCN ITジュニア賞の受賞者
 
つながりあうネットワーク監視システム
 
弓削商船高等専門学校
「join NASS」製作チーム
 
 第18回高専プロコン自由部門で最優秀賞(文部科学大臣賞)を獲得したのは、弓削商船高専の「join NASS」(つながりあうネットワーク監視システム)。同校は、課題部門と合わせて2部門制覇という快挙を成し遂げた。
 この作品は、導入に伴う煩雑さや表示情報の複雑さといった、ネットワーク監視システムの難点を解決することを目的としてつくられた。ネットワーク監視システムは機能が向上するほど複雑でわかりにくくなるが、「join NASS」は導入の手軽さに加え、ネットワークの稼働状況を直感的に把握できるようにブラウザ上での監視、すなわち“見える化”を図るとともに、異常発生時のeメールによる通知機能を備えている。ネットワークに専門的な知識がなくとも運用ができる…というのが最大の利点だ。
 無欲で臨んだ大会だったが、デモを見つめる審査員から「当社にも導入したい」「当校でも使ってみたい」という感想が次々に伝えられ、メンバーは自分たちの意外な実力に驚く一方で、上位入賞を狙えると確信したそうだ。
 
ビーズ編みを支援するソフト
 
弓削商船高等専門学校
「Beauty and the Beads」製作チーム
 
 弓削商船高専の「Beauty and the Beads」は、第18回高専プロコン課題部門で最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞した。
 この作品はビーズアクセサリーの制作を支援するための3次元CADシステムで、自分がつくりたいビーズアクセサリーのイメージを3DCGで描くことによって全体像を把握し、その3次元データから得られる設計図にしたがってビーズを編むことができるようにしたソフト。ビーズを編む過程では、設計図の画面をアニメで表示し、音声入力でコマ送りを操作できる。
 高専プロコンの課題は「子供心とコンピュータ」。ビーズアクセサリーを趣味にしていたメンバーがいたことから、他校が手がけそうにない分野だと判断し、このテーマを実用的な作品に仕立て上げた。弓削商船チームによれば、「やれるだけのことはやり尽くしたが、3次元CADは自分たちの能力を超えたテーマだった」。これだけのソフトを作り上げながら入賞は期待していなかったそうだが、最優秀賞受賞で苦労が報われた。
 
携帯電話で利用できる図書館ソフト
 
岐阜県立東濃実業高等学校
コンピュータ部(作品名「猫の司書さん」)
 
 第28回「U-20(アンダー20)プログラミング・コンテスト」で、団体部門最優秀賞を獲得したのが東濃実業高校の「猫の司書さん」。この作品は、可愛い猫のキャラクターといっしょに図書館の管理業務を簡単なボタン操作で行うソフト。司書の先生にヒヤリングを重ねて図書館業務を分析した結果、貸し出しと返却が簡単にでき、利用者の立場からも図書館に積極的に関わることができる実用的なソフトにしようと考えた。
 貸出期限の超過を知らせて督促したり、貸出中の本が返却されて貸出可能になったことを携帯電話やPCで知らせるメール通知機能を搭載。また、管理者サイドの機能として蔵書データベース、バーコードを読んで蔵書を管理する機能を備えている。また、図書館に足を運ばなくとも貸出予約、図書館への要望を司書に伝えることができるほか、メールによって新入庫やおすすめ図書、図書館でのイベントなども携帯電話で知ることも可能だ。
 審査員からは「非の打ち所のない完成度の高い作品」という講評を与えられた。遠からず、図書室で実際に利用されることになりそうだ。
 
高校プロコン初出場で初優勝
 
富山県立富山工業高等学校
全国高校プロコン参加チーム
 
 第28回全国高校生プログラミングコンテストで優勝したのが富山工業高校。高校プロコンでは、トーナメント方式の直接対決でプログラミングの力量を競い合うゲーム「ターゲットサーチ2007」によって行われた。「ターゲットサーチ」シリーズは今年で3回目だ。直線上に陣地を構え合い、自陣を動かしながら敵陣の位置を推測してボールを発射する砲撃戦のようなゲームだ。今大会では攻撃を控えると投げるボールの大きさが3段階に変化して、命中効率が高くなる新ルールが採用された。
 どちらかのボールが敵陣に命中すると、5分間の作戦タイムを置いて後半戦に臨む。富山工業高校は複数のプログラムを用意し、相手の出方に応じて選択しながら3試合を連勝した。同校は初出場だったが、生徒たちは前大会のプログラムを解析して、どのような戦い方のチームが上位に進出したかを判断し、勝てる可能性の高いプログラムを組むというしたたかさを発揮した。初戦で前評判の高かった久喜工高を接戦で制して勢いに乗り、準決勝、決勝と相手を寄せ付けない強さを発揮し、初出場初優勝という快挙を成し遂げた。
 
ものづくりコンテストで連覇達成
 
長野県松本工業高等学校
小口宏之さん
 
 第7回高校生ものづくりコンテスト全国大会の電子回路組立部門において1位の栄冠に輝き、昨年に続き連覇を果たしたのが松本工業高校電子工業科3年生の小口宏之さん。
 競技内容は、制作する設計・製作回路と制御対象回路を、事前に制作したケーブルによって持参したコンピュータに接続し、制御プログラムをその場でプログラミングして、目的の動作をするシステムを完成させるというもの。ハードウェアの組立技術、回路設計技術、ソフトウェア組み込み技術を総合的に競う全国大会だ。
 長野県大会、北信越大会を1位で通過して全国大会に臨んだ小口さんは、「制御プログラムはすべて動作したので問題はなかったが、回路基盤を制作する過程でミスがあったので、その減点の度合いでは1位を逃すかもしれない」と、自分の作業を冷静に分析したが、結果は見事1位。ITジュニア賞も昨年に続き2年連続の受賞となった。指導教員の赤羽治先生も、「自分で問題を発見して解決する能力が、この1年間でひじょうに向上した」と教え子の健闘に目を細めている。
 
ITジュニア育成交流協会
高山理事長賞の受賞者
 
窓の外の風景で気持ちが癒される
 
詫間電波工業高等専門学校
自由部門製作チーム(作品「WIND+WOW!」)
 
 詫間電波工業高専の「WIND+WOW!」は、第18回高専プロコン自由部門で審査員特別賞を受賞した。この作品は、疲れたときにちょっとした気分転換や息抜きをするための“癒し系”ソフトがうたい文句。外観は木枠に縁取られた出窓のようでカーテンまでついているが、その向こうにはディスプレイが設置されている。
 この窓からは外の景色が見え、のぞき込む位置(角度)によって景色が変化する。プロコン本選会場では、「ふだんは接することのできない海底の風景」をデモンストレーションし、大きなインパクトを与えていた。この窓は開閉によって香りのついた微風が漂ってくるし、映し出された風景に対応して雨の音や風の音、波の音や虫の声が流れてくる。もちろん、香りはアロマセラピーによる癒し効果、サウンドも環境音楽による癒し効果を狙ったものである。
 昨年12月17日には、NPO法人ITジュニア育成交流協会の依頼を受け、東京都世田谷区の北沢小学校で開かれた実習体験授業で実演し、生徒たちから歓声で迎えられた。
 
オリジナリティあふれるWeb紙芝居
 
真岡コンピュータ・カレッジ
「たかねっち」チーム(作品「ママと一緒に絵本の時間」)
 
 真岡コンピュータ・カレッジのWeb紙芝居「ママと一緒に絵本の時間」は、第28回U-20プログラミング・コンテストの団体部門入賞作品だ。この作品は、同校の「たかねっち」チームが制作した子供たちを対象とするWeb紙芝居である。Web紙芝居の基本となるテキストを音声変換して昔話を読み上げる機能に加え、アニメ・BGM・効果音を織り交ぜた作品に仕立て上げた。
 日本昔話から題材をとった14本の物語は1作品当たりの紙芝居枚数が12枚。これらすべてが手書き風の絵で構成されている。いちばん苦労したのは、それぞれのストーリーの展開に最適な絵を考えながら「絵を起こす」ことで、手書き風のほんのりとしたタッチがオリジナリティを高めている。
 物語の最中に「桃を切ったりする」擬似体験など参加型機能も盛り込まれており、構想から完成まで5か月間を要したそうである。審査委員長からは、「ママだけでなくジジやババもいっしょに遊べるので、ぜひタイトルに一考を」という要望が寄せられた。

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外部リンク

ITジュニアの広場(ITジュニア育成交流協会)=http://a.jitep.or.jp/