放送と通信の融合が本格化し、地デジのIP再送信が話題になっているが、それとはまったく違う地平からの「放送と通信の融合」がすでに始まっている。その舞台がこの6月から一般発売されたベンチャーのパワー・トゥ・ザ・ピープル(東京)の全録レコーダー、「スパイダー・ゼロ」だ。地上アナログ・テレビ放送の7チャンネルを過去約1週間分、すべて、一瞬の録り逃しもなく、全部記録するハードディスク・レコーダーである。

 これまでもパソコンで同じようなものはあったが、それらと根本的に違うのは、「通信」──つまりネットの活用だ。単に全部が録ってあるだけでは、今度は、いかに見たい番組を探すかが大変になってしまう。では、このレコーダーは何をしているのかというと、「通信」から番組に関するデータを得ているのである。単にタイトルや登場人物のデータだけでなく、例えばワイドショーだったら何時何分にこのゲストが登場した、どんな話題を喋った。CMだったら、すべてのCMのスポンサー名、キャラクター名をデータにしている。ニュースだったら、すべての見出しと登場人物がデータ化されている。

 つまり、事前のEPG情報だけでは絶対に把握できない実際の放送内容に関するデータが、ネットから送られてくるのだ。それを元に検索をかけると、お目当てのスターがゲスト出演した番組内のあるコーナーだけをピンポイントで再生したり、1週間分のCMをメーカー別、出演者別に抽出したり、あるニュースに関する全局の報道を見比べたり・・・という、芸当が可能になる。それは全部録ってあるから、ネットからデータが来るからできることなのである。ユーザーは全録でないと得られない体験ができる。それは自分の興味に沿って、深掘りができる一方で、それまで自分が知らなかった新しい物事に対しても発見があり、興味が次々に湧いてくることにもなる。

 これまで言われてきた放送と通信の融合では、通信を通じていかにコンテンツを流すかということがメインのサブジェクトであった。しかし、そこで言われているコンテンツとは、映画やドラマ、ドキュメンタリーなど放送でも観られるものばかりだ。それは単に、コンテンツの流通経路が変わるだけの話だった。

 全録が画期的なのは、放送か通信か──という二元的な話ではなく、放送を通信を使ってより楽しむという、「通信あっての放送」という新しいコラボレーションの可能性を拓いたことだ。