苦難を乗り越えて実現

 自社の強みを生かしたシステムの導入を決意したウレタンなどの加工業を営む大番。ITコーディネータ(ITC)で経営コンサルタントの吉田東良・アイビー代表取締役にIT化を依頼することになったわけだが、吉田ITCが考えていたのは「誰も行っていない独自のサービスを提供する」ということ。結果として、インターネットによる自動見積もりがとれることを売りとする発注システム「バンバンネット」が誕生した。大番の大崎常行社長が描いた構想を吉田ITCが具現化したわけだ。

 「バンバンネット」のシステム開発に向け、大番の社内ではプロジェクトチームが結成された。プロジェクト内では、IT化を議論したのはもちろんのこと、最も重要視したのが“モチベーション改革”だった。経営者と社員双方の考えに隔たりをなくす必要があるとの判断からだ。そこで、全社スローガンを掲げて意識改革を図ったほか、「毎日、必ず朝礼を実施するようになった」(大崎社長)そうだ。朝礼では、生産技術者と営業担当者が前日の反省を話し合い、当日の行うべきことを決める形をとっている。

 プロジェクトチームを結成し、経営課題を共有する意識の変革を図りながらIT化を進めてきた同社だが、「バンバンネット」誕生の裏には大きな苦労もあった。「IT化に賛同しない社員が現れた」ことだ。

 インターネットビジネスのメリットとしてあげられるのは、売上拡大に加えて新規顧客を開拓できることだ。営業担当者を支援するためのツールともいえる。ところが、営業部門から「自分たちの仕事がなくなるのではないか」という声があがってきたのだ。

 「辞めていった社員もいた」と、大崎社長は打ち明ける。退職組には、“社長の右腕”といえるほどの幹部もいた。しかし、「生産技術者は、『自分の力が発揮できるようになる』と期待してくれた」。「バンバンネット」の柱である「超特急品加工システム」は、他社が真似できない同社技術者の誇りだったからだ。技術者のやる気が心の支えになった。

 今後、大崎社長が「バンバンネット」の強化策として検討しているのは、「他業界とのアライアンス」で、業界を超えた協業でユーザー層の広がりを狙うというものだ。また、「バンバンネット」の仕組みを販売するビジネスも模索している。同社にとって、IT化に伴う営業部門の人材流出は大きな痛手だったに違いない。しかし、新ビジネスモデルの採用で、加工業者の核である技術者の意識が良い方向に向かったのは大きな成果といえそうだ。苦難を乗り越えて実現したからこそ、同社のインターネットビジネスは大きな意味を持つ。