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No.10 シリコンバレーのニューチャレンジ 激突、仮想化技術-VMwareに挑戦するオープンソースのXen

2009/10/13 20:45

週刊BCN 2009年10月12日vol.1304掲載

 クラウドコンピューティングに仮想化技術は必須である。昨年6月、Windows Hyper-Vが正式出荷され、今年9月始めには、Linuxカーネルに仮想化技術を組み込んだKVM(Kernel-based Virtual Machine)搭載のRed Hat Enterprise Linux 5.4が登場、市場がにわかに騒がしくなった。しかしながら市場を支配しているのはVMwareだ。そして、最も強力に戦いを挑んでいるのはオープンソースのXenである。

独走態勢を整えるVMware

 VMwareはスタンフォード大学准教授だったメンデル・ローゼンバーム氏(CTO)とそのチームメート、そして妻のダイアン・グリーン女史(CEO)が参加して1998年に設立。当初のデスクトップ上の仮想化から、2001年、仮想化を中央サーバーに適用したホストOS型のGSX、ホストOSの代わりに専用カーネルで対応するESXの二つの製品が登場した。もちろん、現在の主力製品はハイパーバイザーとなったESXだ。この市場では仮想化技術の開発競争はほぼ一段落し、運用管理などの周辺整備に焦点が移っている。

 この動きをリードする同社は、昨年のVMworldで新CEOとなったポール・マリッツ氏が仮想データセンターOS(Virtual Datacenter OS)構想を発表。今年5月、これまでのESXインフラであるVMware Infrastructure 3の後継として、VOSを具現化するvSphere 4が登場した。今年のカンファレンス(8月31日~9月3日)では、エンタープライズ市場の圧倒的な優位を背景に、今度はデータセンター業界と手を組んでクラウドビジネスに参入。提供する製品はvCloud Express。この製品はユーザーが利用する仮想マシンのセルフプロビジョニング用ポータルである。これを提携データセンターに提供し、IaaS(Infrastructure as a Service)クラウドを米英豪の5社からスタートさせた。

 そして、8月にはJavaフレームワークのSpringSource(SpringSourceは4月にネットワーク&システム監視のHypericを買収)を買収、次なる目標をPaaS(Platform as a Service)ビジネスに向けている。

シリコンバレー・バロアルト市のVMware本社

追撃するCitrix/Xen

 VMwareを追撃するのは、Xen製品を前面に立てたCitrixだ。同社はもともとWindowsサーバーのリソース管理を擬似仮想技術に見立てたMetaframe(現XenApp)で、シンクライアント市場を開拓してきた。しかし、本格的な仮想化時代が到来。そこで、ケンブリッジ大学で始まったXenプロジェクトの商用会社XenSourceを買収(07年8月)。以降、製品ラインを本格的に整備して仮想化市場に参入した。Xenはまた、Citrix以外にOracleやSunなども採用しており、VMwareとXenの戦いは熱くなる一方だ。Citrixでチームを率いるのはXenとXenSourceの創設者イアン・プラットー氏(現Citrix VP Engineering)だ。現在の製品は、買収半年後に登場したXenServerを基本に、VMware同様、周辺機能の強化を進めてきた。今年2月、その機能強化版となったXenServerを無償とし、上位にCitrix Essentialsを発表して、VMwareへの挑戦を宣言した。

シリコンバレー・サンタクララ市のCitrix事業所

 この製品とVMwareのESXi(無償)を比べると、運用周りなどでCitrixが優位なことに気づく。つまり、同じ無償でもESXiは市場実績を背景にした導入評価用であり、これだけでは本格運用はできない。運用に関するvCenterやvSphere 4は有償というわけだ。追うCitrixは、仮想化だけでなく、システム運用の一部もXenServerとして提供し、大掛かりではないが本番利用に使ってもらおうという戦略に出た。そして上位のEssentialsでは、XenServerに運用管理のXenCenterを取り込んでvSphere 4に近づき、加えて、シンクライアント時代からの提携先MicrosoftのHyper-Vと運用管理のSystem CenterもXen同様にサポート(計画)する。

 こうして、VMwareは仮想化技術のESXを基盤としながらも、軸足を徐々にクラウドビジネス(IaaS→PaaS)に移しだした。一方、CitrixがサポートするXenプロジェクトも標準仕様を採用したクラウド・プラットフォームXen Cloud Platform(XCP)計画を発表して、次なるクラウドに向かい始めたのである。

【著者紹介】
森 洋一
 米国シリコンバレー在住。日本ユニシス入社、リアルタイムシステム設計と開発、流通/オープンシステム・マーケティングなどに携わり、1994年より米国勤務。2002年退社、シリコンバレーにオフィスを開設、ジャパンエントリーとテクノロジーリサーチャーとして活動。著書著書「クラウドコンピューティングー技術動向と企業戦略」のほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿している。
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