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No.15(最終回) シリコンバレーのニューチャレンジ スタートアップを支えるビジネス プラグアンドプレイテックセンター

2009/12/24 16:18

週刊BCN 2009年12月21日vol.1314掲載

 シリコンバレーで次々と生まれるスタートアップは今も衰えをみせない。これまで何度もシリコンバレーは死んだといわれてきたが、そのたびに新しく大きなムーブメントを携えて世界を席巻してきた。そのプレーヤーの多くは、スタートアップ企業である。そして、最近の企業が次々と昔のシリコンバレーの中心・サンノゼからサンフランシスコにより近い場所にオフィスを移していくなかで、サンノゼからそう遠くないサニーヴェールにいながら数々のスタートアップ企業を引きつけているインキュベーションセンターがある。プラグアンドプレイテックセンター(プラグアンドプレイTC)が、それである。

4年間で700ミリオンドル集める

 プラグアンドプレイTCの歴史はそう長くはない。Paypalへの投資の成功を土台にして、2005年にサイード・アミディ氏によって設立された、このプラグアンドプレイTCもまた、インキュベーションビジネスのスタートアップ企業といえる。インキュベーションビジネスとは、スタートアップ企業に必要なサポートを提供し、成長を促すことを目的とするビジネスであるが、アミディ氏は、これをインキュベーションとは呼ばず、エコシステムと呼ぶ。

プラグアンドプレイテックセンターの外観

オフィスには仕切りがないので、情報交換は頻繁に行われる

 多産多死のスタートアップには、インキュベータなど必要ないといわれればそれまでであるが、ここプラグアンドプレイTCには、スタートアップが「前向きに」成長するのに必要な、オフィス賃貸、弁護士、会計士、人事サービス、そして敷地内地下にある自家発電装置完備のデータセンターに至るまでのサービスが整っている。また、サイード本人がパートナーを務めるベンチャーキャピタル、またそれ以外にも大小のベンチャーキャピタルが出入りし、投資のチャンスをうかがっている。事実、ビジネスを始めてから4年で、700ミリオンドルの投資がプラグアンドプレイTC内の企業に集まってきた。

知の集合体を形成

 しかし、入居者、すなわちスタートアップにとって、プラグアンドプレイTCの最大の価値は、提供されている各種サービスや、投資機会ではないと私は感じている。プラグアンドプレイTCの最大の価値とは、ここに集まる150社以上のスタートアップ同士のエネルギーのシナジー効果、それを増大させるべく開かれる数々のイベント、そしてそれらイベントを通して繋がる入居企業以外の人々(当然、そのなかには業界の有名人も入っている)との間に広がる強大なネットワークである。また、トレンドを取り入れたオフィスレイアウトなどの工夫も功を奏していると思われる。例えば、今はiPhoneアプリを作る企業がiPhone Pavilionという名のもとに、オフィスの一角を占めている。

 一つひとつの企業が借りるオフィスは1キューブ(二人用の机と椅子程度)だが、集まれば会社の垣根を越えた貴重な情報交換、それによる生産性向上、チャネル開拓の場が生まれ、一人や二人では到底できないサイズのビジネスを可能にしていく。日本のベンチャーのように、情報が漏れるのが怖くてNDA(機密情報保持契約)なしでは情報交換もままならないということはないし、それゆえ孤立感もない。そもそもキューブやオフィス間にドアなどの仕切りがない会社のほうが圧倒的に多いのだ。

 こうした仕組みが、多産多死を繰り返すダイナミズム、エコシステムの形成を可能にしている。まさに、シリコンバレーの縮図をここに見ることができる。

【著者紹介】
川鍋 仁
 シリコンバレー在住。大手国産ベンダーでソフトウェア開発とインターネットの研究に従事した後、オラクル入社。担当製品の開発のために渡英し、5年後に帰国後も多くの製品の開発、品質管理、リリースマネジメントおよびメンテナンスのプロセス改善を手掛ける。その後、米国ベンチャー企業アイピーロックスに入社、本社開発本部長として渡米する。現在はサンブリッジパートナーズ アレンマイナーとともにプラグアンドプレイテックセンターで主に日本企業の米国参入支援を行うかたわら、SaaS型会計システムのプロジェクトマネジメントを兼任する。
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