MOOC(Massive Open Online Course)という用語をご存じだろうか。ここでは、「大規模公開オンライン講座」と訳しておこう。誰でも参加でき、クラウド上に分散する資源を活用して受講者間で学習プロセスを共有し、協調的な学習を行うネットワーク学習の仕組みを備えた、生涯学習のための無料オンライン講座である。これが昨年から流行の兆しをみせている。世界的に著名な大学が次々とMOOCへの参入を表明して、その運用のための組織がいくつも設立されている。例えば、コンピュータアルゴリズム分野で有名なプリンストン大学のロバート・セジウィック教授のMOOCは、昨年、2万8000人もの人々が受講したそうだ。

 実は、クラウドコンピューティング関連の文献を調査していてこのMOOCに気づいた。そのきっかけとなったのが「Engineering Long-Lasting Software」という電子書籍だ。これはカリフォルニア大学バークレー校の教員による「Software as a Service」と題するMOOCのための教材である。このMOOCは、長期間持続的に利用可能なソフトウェアをSaaSとして開発し、提供するための技法について体系的に学ぶことを目的としている。Ruby on Railsを使い、テスト駆動開発、ビヘイビア駆動開発、ペアプログラミングといった開発手法を学ぶことができる。また、その学習用にアマゾンEC2上で動作する仮想マシンイメージが用意され、クラウドサービスを使ってクラウドサービスを開発する技法を学ぶよう体系立てられている。

 今、クラウドコンピューティングの時代に突入し、わが国の情報技術産業は急激な変革期を迎えている。この変革の時代に求められるのは、変革の先を見越すビジョンと、それに備える教育にほかならない。しかし、情報専門学科カリキュラムを、昨今の情報技術環境の急激な変化に対応できるよう迅速に改訂することは容易ではない。その変化に対応できる知識や技能を備えた情報系専門教育者も残念ながら十分とはいえない。また、中小情報技術企業の多くにとって、その情報技術者のために、クラウドコンピューティング時代に備えるための新たな技術教育プログラムを整えることも困難である。しかし、先端的な情報技術ビジョンと高度な教育スキルを備えた情報系専門教育者がわずかでもいれば、MOOCのような基盤を整備することでこれらの問題に対応することはできる。クラウドコンピューティング技術教育のためのクラウド基盤を整備する、産官学の壁を越えた動きを期待したい。