視点

電子書籍に及び腰の出版社と業を煮やす経産省

2013/05/09 16:41

週刊BCN 2013年04月29日vol.1479掲載

 電子書籍の時代といわれている。アップル、グーグル、アマゾンなど外資3社が出揃い、読書端末と電子ストアの闘いは激しさを増している。外資系ほか国内大手の書店、印刷会社、キャリア系企業が電子ストアを立ち上げた。その激戦模様の市場は、世界でも例がなく、電子書籍の売れ行きは、世界でもトップクラスといわれている。

 楽天の三木谷浩史社長は2020年までに5000億円の市場になると公言し、楽天はシェア50%を狙うと意気込む。実際はキンドルストアが群を抜いて独走態勢に入っているが、出版界は、電子書籍にいまだ懐疑的なところがある。出版業界におけるここに至るまでの経緯を少し紹介したい。

 出版社はこの数年、電子書籍という新たなビジネスを前に立ち尽くしていた。2010年にはすでに「電子書籍元年」と言われていたが、出版社が腰を据えてこの事業に取り組んだのは、つい最近のことである。

 当初、出版社を躊躇させていたハードルはいくつもあった。それは電子書籍が市場に出回ることで、全国の書店にどれほどの影響があるのかという問題だった。電子書籍事業が急成長することで、これまで紙の本を増売してくれた書店を裏切るわけにはいかない。ただでさえ、窮状に追い込まれている街の書店を、これ以上減らすことは、出版社の経営にとって死活問題である。情緒的なようで、出版ビジネスモデルの根幹的なものであった。

 そして価格の問題も大きかった。出版業界は定価販売が許されている再販制度に守られ、全国どの書店でも価格は同一。しかし、電子書籍はその範囲ではなく、電子ストアに価格決定権を委ねることになる。正確にいえば、ホールセラー契約などである程度はコントロールできるが、出版社にその決定権がないことについては、アレルギーがつきまとっていた。さらにはフォーマット、手間、労力、専属部署がない、著者の許諾が取れない──挙げればキリがないほど、「やりたくない言い訳」が出てきた。

 それらは、ほとんどの出版社が中小・零細企業であるからこそ、難しい問題であった。それに業を煮やしたのは経済産業省だった。10億円の予算を計上した「コンテンツ緊急電子化事業」を出版団体に委託し、コストと手間の問題を払拭させて約6万5000点の電子書籍を創出させた。現在、国内の電子書籍はおよそ35万点程度。それはまだ、全体の一部であり、本番はこれからである。
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