徳島県は、OSS(オープンソースソフトウェア)の活用が盛んだ。県の情報システム課では、運用保守コストの削減や共通基盤化を目的として、2006年にOSSの活用を開始。地場のITベンダーと共同で、OSSのプログラミング言語Rubyを活用した情報システムを開発した。県庁がそれを利用するだけでなく、「自治体OSSキット」としてパッケージ化して、県内外に活用を勧めている。(取材・文/真鍋 武)
ベンダーロックインからの解放
徳島県では、もともと情報システムの調達に関する統一した基準を設けていなかったことから、各業務の所管課が入札制度に基づいて個別にシステムを調達していた。そのため、各システムは、それぞれが独自のDB(データベース)で構成されていたり、認証方法が異なっていたりして、システム間で連携をとることが困難な状況となっていた。
さらに、システムのなかには、バージョンアップ時に多大なコストがかかるだけでなく、後継のシステムや周辺のシステムを調達する際の選択肢が限られるベンダーロックイン状態のものがあった。経営戦略部情報システム課の住吉孝次・主査兼専門員は、「従来使っていたグループウェアは、バージョンアップにおよそ1億円ものコストがかかっていた。膨大なコストを捻出し続けることは難しい状況だった」と当時を語る。また、このことは県だけの問題ではなく、システムの改修に際して、地場のITベンダーが入札に参加する機会を奪っていた。県内のIT産業を活性化するうえでの課題にもなっていたのだ。
そこで徳島県は、2006年に情報システムの運用保守コストの削減と共有基盤化、県内IT産業の活性化を目的として、庁内のシステムを見直し、安価でカスタマイズの自由度が高いOSSの活用を進めることを決めた。まず、OSSの活用で実績のある長崎県から無償提供を受け、総務事務システムや電子決裁・文書管理システム、母子寡婦福祉資金貸付償還システムを徳島県仕様に改修して導入。その後、08年から入札で選定した地場のITベンダー3社と共同で、OSSの開発言語であるRubyを活用した情報システムの開発に取り組んできた。ホームページ作成システムの「Joruri CMS」、グループウェアの「Joruri GW」、オンラインストレージの「DECO」、認証基盤管理システム「Ai LMS」がその例だ(図参照)。
こうした取り組みによって、徳島県はシステムの運用保守コストを約40%削減。また、10年からは、開発したシステムをクラウド化して、県内の市町村との共同利用を開始している。
徳島県発の「自治体OSSキット」
徳島県は、地場ITベンダー3社と共同で開発した情報システムを、11年11月に「自治体OSSキット」としてパッケージ化し、県内外の自治体に対して利用を勧めている。「自治体OSSキット」は、アイ・ディ・エスと共同開発した「Joruri」シリーズ、ニューメディア徳島との「DECO」、日本システム開発との「Ai」シリーズで構成され、そのほとんどのソフトの開発コードを公開している。経営戦略部情報システム課専門幹の山住健治氏は、「OSSなので、導入コストが安い。また、徳島県で実際に使っているという実績があり、自治体での利用に最適化されている。商用の製品と比べても機能が劣っているわけではない。さらに、ソフトの組み合わせも自由」と、他の自治体が利用するうえでのメリットをアピールする。
県が主体となって普及活動を進めた結果、全国に「自治体OSSキット」の活用が広がっている。今年6月時点で、「Joruri CMS」は約115の自治体や企業、「DECO」は17の企業と自治体、「Ai」は県内の一つの自治体で利用されている。住吉主査兼専門員は、「構成ソフトの多くがOSSなので、知らない間に利用されていることも考慮すれば、実際の導入件数はもっと多いはず」と説明する。
また、OSSなので、共同開発した3社以外のIT企業も導入支援やカスタマイズを容易に手がけることができる。「実際に、『Joruri CMS』では、開発元のアイ・ディ・エスだけでなく、他の地場のITベンダーが導入を支援した事例がある」(住吉主査兼専門員)。
徳島県では、OSSの活用をさらに進める方針だ。災害時情報システムなど、複数のシステムを新たに開発して、OSS化する見通しが立っている。住吉主査兼専門員は、「徳島県は人口や県内総生産が小規模で、全国の各県と比べると、たいていの数字が下から2、3番目。全国的に知れ渡っているものといえば、阿波踊りくらいだ。しかし、小さな県でもやればできる。徳島県発のOSSを今後も全国に広めていきたい」と意欲をみせる。

徳島県経営戦略部情報システム課の住吉孝次・主査兼専門員(左)と山住健治・専門幹