佐賀県は、ICTの利活用が県民生活の向上や地域の活性化を図るうえで不可欠とみて、自治体クラウドや庁内システムのオープン化だけでなく、医療や学校教育の分野で、先進的な取り組みを推進している。2013年5月31日には、これら分野に加えて、観光や商工、流通など、まだICTが十分に浸透していない分野での利活用を促進すべく、「佐賀県ICT利活用推進計画」を策定した。(取材・文/真鍋 武)
「佐賀県ICT利活用推進計画」は、「ICTで暮らしを守り、未来を拓く」を基本理念として、「安全・安心な県民生活の実現」「競争力のある地域産業の育成」「心豊かで活力ある県民生活の実現」「県民本位の電子自治体の推進」「県民のICT活用力の向上」の5本の柱を立てて、合計28の行動計画を策定している。
特徴は、それぞれの行動計画に対して、目的と担当課、数値目標、工程表を具体的に明示していることだ。例えば、行動計画の一つである「経営戦略におけるICT利活用促進」では、ICTの導入を促進することによって中小企業のコスト低減や製品の高付加価値化につなげて売り上げを伸ばすことを目的に、統括責任課を新産業・基礎科学課、関係課を流通課、商工課、観光課、情報課と定めた。そのうえで複数の工程表をまとめ、向こう2年間で中小企業を支援する県内ITベンダーを4事業者、支援を受ける中小企業(ユーザー)を16事業者にするという目標を立てている。他県のIT戦略では、ここまで具体的な行動計画を策定しているものはほとんどない。
計画策定の中心的役割を果たした森本登志男最高情報統括監(CIO)に、背景や狙いを語ってもらった。
<森本登志男 最高情報統括監> 民間企業出身のCIO。京都大学工学部を卒業後、1986年4月に宇部興産に入社。その後、ジャストシステム、日本マイクロソフトを経て、総務大臣委嘱の地域情報化アドバイザーに就任。11年4月、佐賀県のCIOとなった(任期は3年間の予定)。
誰が、何を、どう推進するのかを明示
「佐賀県ICT利活用推進計画」は、過去の反省をもとに策定した計画だ。佐賀県では、2008年に「さがICTビジョン2008」を定めて、過去5年間にわたってICTの利活用を推進してきた。その結果、成果が上がったのは、電子自治体や、高速インターネット網を県内全域に張り巡らすなど、情報課が担当していたことばかりで、その他の部門が進めるはずだったものは、ほとんど実現できなかった。
とくに中小企業や農林水産業、商業、観光業などの産業面でのICTの利活用は、成果が上がらなかっただけでなく、具体的な行動さえも起こせなかった。その原因は、ICTの利活用について、「誰が」「何を」「どうやって」進めるのかということを明示していなかったからだ。情報課以外の各課は、ITは本流ではない。具体的な計画なしに、ICTの利活用が進むわけがなかったのだ。
そこで、各課に直接動いてもらうために、佐賀県の政策の要である「佐賀県総合計画2011」の下位計画として、今回の計画を策定した。28すべての項目に担当課を定めて、何のためにやるのかという目的を明示している。そして、すべての項目に数値目標をつけて、実現するための工程表も策定した。さらに、私が年2回、各所属長との協議の場を設けて、評価・検証を実施することになっている。
28項目の目標年次は、ITの進歩のスピードが著しいことと、総合計画の目標年次が残り2年となっていることから、13~14年度の2年間と定めた。どの目標も実現可能な範囲に設定してある。
地場ベンダーは受託ビジネスからの脱却を
とくに、産業面でのICTの利活用が重要な課題だ。産業面では、中小企業がITを活用して売り上げを伸ばすところまでは、まだ到達していない。そのため、観光、商工、流通、新産業に関わる各課には、それぞれ1項目ずつ行動計画を策定した。
こうした産業分野のICT利活用には、県内のITベンダーの協力が欠かせない。県内のITベンダーは、受託型のビジネスを中心としている企業がほとんどだ。しかし、受託ビジネスは先細りしていくことは目に見えており、ここに依存したままでは、経営基盤が揺らいでしまう。地場ベンダーには、産業面でのICT利活用を支援すると同時に、地場IT産業の活性化にも力を尽くしてもらいたい。
また、佐賀県は、全国でも先進的な事例となったiPadを活用したクラウド型の救急医療システムのアイデアやノウハウを無償で提供している。県内のITベンダーには、これを活用して他県に営業をかけて、案件の獲得につなげてもらいたい。佐賀県の緊急医療システムは、県外の自治体が頻繁に視察に来るなど、注目を浴びている。実際に、すでに八つの県が、佐賀県を参考にして同様のシステムを導入しており、検討中のところも多い。このことは、佐賀県内のITベンダーにとって大きなチャンスとなる。
佐賀県の緊急情報システムは、まだ発展途上で、改善の余地は大きく、そこに付加価値をつけて他県の自治体に提案すれば、案件を獲得しやすいはずだ。残念ながら、今はまだ、緊急医療システムをビジネスにしている県内ベンダーはないが、従来型のビジネスモデルで商売ができているうちに、こうした新しい挑戦をして、未来への布石にしてほしい。(談)