佐賀県は、人口や面積、県内総生産が小規模で、九州のなかでも最下位となっている。IT企業の数も全国の他地域と比べて少ない。その一方、県内では、多くの自治体が積極的にICTの利活用を推進している。県は、自治体クラウドや庁内システムのオープン化だけでなく、医療や学校教育などの各分野で、注目に値する先進的な取り組みを推し進めている。(取材・文/真鍋 武)
小規模市場だがIT利活用に積極的
佐賀県の人口は約85万人、面積が約2400km2、県内総生産(名目)は約2兆8000億円で、これらはすべて全国40位以下となっている(表参照)。九州内でも最下位で、佐賀県の市場規模は小さい。IT産業も同様だ。経済産業省の特定サービス産業実態調査(2010年)によると、佐賀県内にあるソフトウェア業の事業所は19で、情報処理・提供サービス業は21。IT企業は少なく、売上高が100億円を超えるベンダーは皆無だ。
しかし、佐賀県のIT市場動向を見過ごすことはできない。県が03年に情報関連システムのコストダウンを目的として、最高情報統括監(CIO)制度を導入して以降、県内の各自治体がICTの利活用を強力に推し進めているからだ。
例えば、自治体クラウドである。県は、2008年8月に、県内市町村の基幹業務システムの共同利用化を目的として、知事やCIO、県内の20市町の全首長を構成員とする「佐賀県ICT推進機構」を設置。09年には、総務省から「自治体クラウド開発実証事業」の採択を受けて、武雄市、鹿島市、嬉野市などの六つの市町で、住民情報、税、国民健康保険関係の基幹業務システムの共同利用化を実現した。実証実験の結果、「10年間、共同利用を行えば、現行のシステムと比べて運用コストを約40%削減できることがわかった」(佐賀県統括本部情報課の末次博之副課長)。これを受けて、県は2016年度までに県内の全市町が共同で利用できる基幹業務システムを新たに開発する予定だ。
医療福祉や教育分野は最先端
佐賀県は、とくに医療福祉と学校教育の分野で、全国的にも先進的なICTを利用した取り組みを行っている。

健康福祉本部
医務課医療企画担当
円城寺雄介
主査 医療福祉では、近年、救急車で搬送される人が増えている実態を受けて、2011年4月に、県内のすべての救急車55台にiPadを配備。救急現場で救急隊員が、どの病院ならば患者を受け入れることができるのか、どの病院に搬送が集中しているのかといった情報を、リアルタイムに把握・共有できるシステムを構築した。この結果、救急現場から病院までに搬送する時間を短縮することができるようになった。「全国で搬送時間が増え続けているなかで、短縮できたのは佐賀県だけ」(健康福祉本部医務課医療企画担当の円城寺雄介主査)という。また、クラウドベースのシステムを構築したおかげで、従前の救急システムと比べて、運用コストを年間で約4000万円削減。こうした実績が評価されて、すぐれたモバイルシステムを評価する「MCPC award 2012」では、グランプリ/総務大臣賞を受賞している。
教育分野では、2011年から「先進的ICT利活用教育推進事業」として、人材育成と、ICT機器の設置、システムの構築を推進している。佐賀県は、近年、日本の学生・生徒の学力が国際的にみても低下しているなかにあって、県の学力が小学校は全国42位、中学校は全国37位(2010年、文部科学省)と下位にとどまっていることに危機感を覚えた。そこで、シンガポールなど、ICTの利活用に積極的な国が、国際的に学力で上位につけていることを受け、ICTが学習効果を高めると判断。県内の教育現場への迅速な普及を進めている。

教育庁教育政策課
教育情報化推進室
福田孝義
室長 人材育成については、県内のすべての教師約8000人に対して、ICTを活用した指導ができるよう段階的に指導。「13年度中には、県内の教師全員が、ICTを利用した授業を実施できるレベルにまで到達させる」(教育庁教育政策課教育情報化推進室の福田孝義室長)という。
ICT機器では、すでに全4校の県立中学校と、全8校の小・中・特別支援学校では、電子黒板を全教室に、タブレット端末を全校生徒向けに配備済みだ。今年度中には、全36校の県立高校でも、電子黒板をすべての教室に配備する。来年度には、すべての県立高校の新入生がタブレット端末を利用できる環境を整備する予定だ。
さらに、校務支援、学習管理(LMS)、教材管理の各システムを一元化した教育情報システム「SEI-Net」を構築し、今年4月に稼働を開始。従来は、校務システムやLMSを、ベンダーが個別に提供していたので、システム間で連携をとることができなかった。「SEI-Net」では、「タブレット上で教材や問題を配布して、生徒は学習したり、テストを受けたりできる。教師は、その成績を管理したり、事務連絡のメールを配信したりすることが可能だ」(福田室長)。これら学校向けシステムの一元化を実現した事例は、国内初となっている。