日立製作所がビッグデータ関連のビジネスを加速させている。電力システムをはじめとする大規模システムでビッグデータを活用してきた経験と実績を生かし、ユーザー企業のマーケティング部門など、今後の成長が見込まれる分野へ積極的に展開していく姿勢をみせている。
ビッグデータ活用に
プライバシー保護の壁
日立製作所は、今年2月、マーケティング領域におけるビッグデータ活用で、広告代理店業の博報堂との協業を発表した。情報・通信システム社の安田誠・スマート情報システム統括本部副統括本部長は、「マーケティング支援ソリューションは、当社が弱い分野。当社がゼロからつくるよりも、ノウハウをもつ企業と組むほうがいい」と明言した。
5月には「ビッグデータで取り扱う生活者情報に関する意識調査」を公表するなど、両社の協業は着々と進んでいる。この調査は、個人の生活に関わるさまざまな情報を、企業がビッグデータとして扱うことに対する生活者の声をまとめたものだ。注目したいのは、「情報をまったく出したくない」という拒否層が全体の8%あったものの、匿名化などの条件つきで「出してもいい」という層が58%もいたことだ。利活用への期待が大きい楽観層の17%を合わせると75%になる。適切な対応ができれば、ビッグデータ活用の道が開けると日立は期待している。
日立は、今年5月、プライバシー保護への取り組み強化に関する発表も行った。企業がビッグデータを活用するにあたって、プライバシー侵害のリスクを最小限にするコンサルティングサービスだ。同社独自のチェックリストに基づいたプライバシー影響評価(PIA)を実施して、プライバシーへの影響を事前に評価するという。
ただし、プライバシー保護とビッグデータ活用は、非常に難しい関係にある。
日立が今年6月にJR東日本の「Suica(スイカ)」約4200万枚の履歴情報を分析した情報提供サービスの開始を発表したところ、「個人が特定されるのではないか」などという懸念の声が上がった。JR東日本は当初、個人を特定できるデータを渡していないために問題はないとしたが、その後に利用者からのデータ削除依頼に応じることを発表している。結果的に、プライバシー保護における対応の難しさが浮き彫りになった。
ビッグデータを5種に分類
15年度に1500億円の事業へ
時代のキーワードとしてビッグデータがもてはやされる一方で、「ビッグデータとは何か」「当社のこのデータはビッグデータなのか」といったユーザー企業の疑問の声は絶えない。
安田副統括本部長はそうした疑問に答えるべく、ビッグデータ活用の伝道師として、全国を飛び回っている。ビッグデータ活用については、次の五つの分類で説明してきた。
(1)ヒューマン(行動履歴など人に関するデータ)、(2)マシン(機械やシステムなどモノの稼働情報)、(3)マーケット(リアルな市場を表すデータ)、(4)ロケーション(位置情報や空間データ)、(5)スマートインフラ(電気や水、ガスなど社会生活を表すデータ)。
これらデータをどう活用するのか。そのシナリオを作成して検証も行う。例えば、電車が故障したとき、保守要員がそのつど対応していたら10人必要になるが、3日前に故障を予兆できれば、2人で済む、といったイメージだ。
過去の実データを使った分析と、実際の結果を照らし合わせれば、予測の精度は上がる。こうした検証を繰り返しながら、精度の高いシナリオをつくっていく。もちろん、シナリオを実行する費用がどの程度かかるのかも提示する。ユーザーに投資を判断する材料を提供するためだ。
安田副統括本部長は「当社の強みは時系列データの分析ノウハウと、各種センサを開発していること」と話す。しかも、エネルギーや鉄道、自動車など社会インフラの運用・保守に携わり、モノの製造、販売からサービスまでを一貫して提供している。それらを起点にしたビッグデータ活用による売り上げは、関連するハードウェアやソフトウェアを含めても2012年度は約100億円であった。だが、社会インフラのビッグデータ活用は世界共通のテーマになると捉えて、グローバル体制を整えて、15年度には約1500億円へと引き上げる計画だ。
IT産業の競争は変わってきており、ハードウェアやソフトウェアの性能だけで差異化を図るのは非常に難しい。新しいサービスモデルの創出が必須である。ビッグデータ事業がそのための有力な分野の一つであることは間違いない。
【今号のキーフレーズ】
ビッグデータ活用は発展途上 。市場で競争優位を確保するにはサービスモデルの確立が急務