名護市は、2002年に金融特区と情報特区の指定を受けた。沖縄県と名護市は、特区に新たなIT市場環境を創出する「きんゆうIT国際みらい都市」をつくる構想で、ここもまた沖縄県のIT産業集積の重要拠点だ。こうした特区制度やさまざまな助成制度を利用して、県内のベンダー、県外からの誘致企業とも、沖縄発の新たなビジネスモデルを模索し、活動を活発化させている。(取材・文/本多和幸)
「オンショア」とDC運営で成長
名護市の金融特区と情報特区は、誘致企業の支援施設も早くから段階的に整備してきた。1999年開館の、ベンチャー企業のインキュベート施設としての色彩が濃い「名護市マルチメディア館(MM館)」を皮切りに、2004年には、MM館からステップアップした企業の移転先であるインテリジェントビルの「みらい1号館」、2005年には金融向けなどのミッションクリティカルなシステムを運営できる本格的なデータセンター(DC)「みらい2号館」、そして、2009年、2013年には新たなインテリジェントビル「みらい3号館」と「みらい4号館」がそれぞれオープンしている。これらは市内の豊原地区に集積している。
県内ITベンダーの入居企業で存在感を発揮しているのが、クオリサイトテクノロジーズ(小森彦太郎社長)だ。みらい2号館にDCとオフィスを置く。2008年にキヤノンマーケティングジャパンの傘下に入り、同グループ内のDC運営における首都圏・沖縄の相互のバックアップ体制を完成させて、顧客から高い評価を得ている。

松村隆之
部長 ただ、「DCだけでは雇用は生まれない」と、松村隆之・管理部部長は話す。同社は、もともと国内大都市の金融機関向けなどでシステム開発の実績を積んでおり、毎年2ケタ成長を続けている。これと、DCでの金融系本番機の運用などを組み合わせることで、「さらに高収益体質の企業にしたい」(松村部長)という。
なお、同社は自社のシステム開発事業を「オンショア開発」と位置づけている。特区に拠点を置くことでコストを抑え、オンサイト開発と同等以上のクオリティのシステム開発サービスを提供するというコンセプトだ。こうしたビジネスモデルを成立させるためには、地元で優秀な人材を確保することが必須となる。そこで、新卒採用を積極的に行い、新入社員に対しては6か月間の長期研修を施して、各人の成長に合わせた独自の育成カリキュラムを適用するなど、高度な人材育成ノウハウを蓄積している。そうした取り組みが評価され、独立行政法人情報処理推進機構の「中小ITベンダー人材育成優秀賞2012」を受賞している。

名護市きんゆうIT国際みらい都市構想のみらい2号館にクオリサイトテクノロジーはDCを置く。ミッションクリティカルなシステムを運営できる本格的なDCとして整備してきたという
アジアへのネットワークにも期待

川上友
取締役 一方、県外から名護市の特区に進出した企業もある。例えば、店舗の覆面調査やラウンダー派遣といった実店舗のサポートやマーケティングシステムを開発・販売する東京のメディアフラッグ(福井康夫社長)は、昨年10月、MM館に子会社のメディアフラッグ沖縄(平良尚也社長)を設立した。メディアフラッグは、これに伴い、基幹業務機能を沖縄に移した。同時に、メディアフラッグ沖縄は独自事業として、スマートフォンアプリの検証事業を立ち上げた。すでに県から技術者育成事業の委託も受けており、県のIT施策を活用して、新たな事業と雇用の創出に取り組んでいる。さらに、地理的な特性を生かして、近い将来にはメディアフラッググループのアジア進出の拠点にする構想をもっている。メディアフラッグ沖縄の川上友・取締役人材統括部部長は、「企業誘致は全国各地で行われているが、名護市の場合は誘致後も継続して人の採用などをきめ細かくサポートしてくれるのが魅力」と評価している。

倉富和幸
主査兼NDA事務局長 そうした入居企業の誘致や支援を担当するのが、特区関連事業を推進する専門機関である「特定非営利活動法人NDA」だ。NDAの事務局長を兼務する倉富和幸・名護市企画部主査は、「NDAはもともとベンチャー支援的な側面が強かった。しかし、誘致企業に名護に定着してもらうことが大事と考えて、UIターン技術者を核にする人材育成にも取り組んでいる。その一方で、採算性の低い企業を無理に誘致するようなことはしない」と説明する。NDAの活動は、多くの入居企業に評価されており、企業定着と雇用の創出・安定の大きなファクターになっている。現在、特区内の雇用者数は1000人強だが、2018年までにこれを2500人にするのが目標だ。

磯部良行
プロジェクトマネージャー アジアへの展開を見据えた沖縄への進出事例は、那覇にもある。文字情報を信号処理によって音声に変換する新しい通信技術「サウンドコード」を開発・提供しているフィールドシステム(鈴木浩司代表取締役)は、2009年から県の研究開発補助事業を活用して技術をブラッシュアップしてきたが、今年3月には、沖縄振興開発金融公庫から8000万円の出資を受け、「サウンドコード」の商用化に本格的に取り組むことになった。磯部良行プロジェクトマネージャーは、「もともと東京の会社だったが、現在は沖縄本社に変更している。『サウンドコード』は、沖縄発の技術として、アジアへの販路を開拓していきたい」と意気込む。

次回はスマートシティの取り組みを積極的に進める福岡県北九州市のIT産業の動きを紹介する