日本有数の観光立県である沖縄県は、ITをもう一つの産業の柱として確立すべく、1998年に「沖縄県マルチメディアアイランド構想」を策定し、官民一体となった独自の情報産業振興策を進めてきた。近年は、「クラウド」をキーワードに、日本のIT産業をけん引する姿勢をみせ始めていて、県内のベンダーの動きが活発化しているのはもちろん、全国の有力ベンダーが注目する市場になっている。(取材・文/本多和幸)
受託開発だけでは限界
1972年に日本に復帰し、現在も面積ベースで在日米軍基地の7割以上が集中する沖縄県。地理的にも、沖縄本島は本土から約650km離れており、日本では、唯一、県内全域が亜熱帯気候に属する。こうした独特の自然環境、文化、歴史をもつ沖縄県は、観光産業、そして沖縄開発振興の補助金をベースにした社会インフラ整備事業を経済の柱にしてきた。
しかし、1998年、経済的自立に向けた新たな施策として、IT産業を観光と並ぶ県内の中心産業に育成する「沖縄県マルチメディアアイランド構想」を打ち出した。さらには、2002年に国の新たな沖縄振興計画もスタートし、IT産業振興にも補助金を投入。その結果、2000年と比較した2011年のIT産業規模は、雇用者数が8600人から3万1845人、生産額が1391億円から3482億円、誘致企業が54社から237社と順調に成長を遂げた。
一方で、その内訳をみると、雇用者数で大きなウエートを占めるのが情報サービス分野のコールセンター業務で、約1万8000人にものぼる。ただし、インバウンドに特化した単純なコールセンター業務は縮小していく傾向にあることから、現状のままでは大きな発展が見込めないという課題もある。

沖縄県IT産業の一大集積地であるIT津梁パーク
仲里朝勝
会長 また、ソフトウェア開発は、業種別の生産額、企業立地数、雇用者数とも上位にあり、沖縄県IT産業をけん引する主要分野だが、人件費が安いというコストメリットが評価されてニアショア開発の拠点と位置づけられることが多く、従来型の下請け案件中心の受託ソフト開発による成長には限界がある。沖縄県情報産業協会会長で、県内のIT関連業界団体の連合会である沖縄県情報通信関連産業団体連合会の会長も務める仲里朝勝氏は、「雇用者数とIT産業の業種別生産額などをみると、コールセンターは雇用を生んだものの、思ったよりも生産性は高くなかった。ソフト開発にしても、本土のベンダーの下請け仕事だけでは先がないのは目に見えている。付加価値をもつ次世代のIT産業をつくっていかなければならない」と指摘する。
昨年、本土復帰40周年を迎えた沖縄県は、それを機に、新たな中長期計画「沖縄21世紀ビジョン」を発表した。そして、沖縄県情報通信関連産業団体連合会の提言などをベースに、IT産業の振興でも、これまでの取り組みの成果を踏まえた新たな計画「おきなわSmart Hub構想」を策定。新たな補助事業も展開し、2021年度には雇用者数5万5000人、生産額5800億円を目指すとしている。
オール沖縄でクラウドに取り組む
基本的なコンセプトは、沖縄の地理的特性を生かして、文字通り国際的な情報通信ハブ拠点を形成すること。それを、県内のIT産業の成長のベースとしたいと考えている。そのための施策としては、人材育成や国内外の企業・人の誘致とその集積拠点の整備などがあるが、他の都府県と比べて潤沢といえる国からの補助金(一括交付金)を活用し、ITインフラの整備や先端技術の開発に、官民連携で取り組む方針であることが、非常に特徴的だ。
具体的には、クラウド環境のインフラ整備とネットワーク基盤技術の開発・運用や、ソフトウェアのテスト業務基盤構築などの事業が、すでにスタートしている。

大城勇人
班長 最も注目を集めているのは、平成26年にうるま市で稼働を開始する予定の「沖縄クラウドデータセンター(仮称)」だ。公設民営で、クラウド・ネイティブな最新鋭DCとして建設が進められている。県は、この沖縄クラウドDCを拠点に、既存の県内主要DCをネットワークを通じて連携し、統合的なクラウド基盤として整備していく計画だ。さらに、そこに実装して運用するIaaS、PaaS基盤や、SDN技術の開発も、補助事業として民間に委託している。沖縄県情報産業振興課情報振興・金融特区班の大城勇人班長は「民間事業者だけでDC連携などに取り組んでいるところはあるが、沖縄は、官民一体のオール沖縄で、新たな付加価値をもつ『沖縄クラウド』の構築に取り組んでいる。さまざまな独自商材の流通基盤ともなり得るため、県内外のITベンダーにとって大きな魅力になっているようだ」と、手応えを語る。
IT関連企業の集積拠点として大きな存在感を放っているのは、沖縄クラウドDCの建設地にほど近い場所、同じくうるま市内に位置する「IT津梁パーク」だ。今年4月現在で、20社が入居し、約1150人が働いている。DCのネットワーク制御基盤技術や、ソフトウェアのテスト基盤などの開発は、ここが拠点となる。「ソフト開発、テストセンター、BPOセンター、DC活用ビジネスなど、沖縄の新しいIT産業の集積拠点として展開していく予定だ。入居企業は順調に増えており、順次施設を拡張している」(大城班長)という。
また、国から金融・IT特区の指定を受けている名護市が、DCとしても使えるIT企業向け施設群を建設して、北部のIT産業集積拠点を整備するなど、市町村レベルでも、さまざまな支援施設を整備している。県は、これらの施策を統合的にハンドリングし、企業・人材の誘致や起業支援の受け皿として活用していく方針だ。