IT業界で提案の切り口として注目を集める「ワークスタイルの変革」。大手システムインテグレータ(SIer)の新日鉄住金ソリューションズは、2013年4月、DaaS(Desktop as a Service)やMDM(モバイル端末管理)などのツールを担当する「ワークスタイルイノベーションSOL営業グループ」を新設し、リーダーに“関西商人”である木村喜広さんを起用した。木村さんは、大阪でITアウトソーシングを売り込むなど、長年、新規顧客開拓の腕を磨いてきて、そのスキルを生かしながら、DaaSやMDMの販売をけん引している。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
新日鉄住金ソリューションズ 木村喜広さん
●profile..........木村 喜広(きむら よしひろ)
2003年、新日鉄ソリューションズ(現・新日鉄住金ソリューションズ)に入社。関西支社でITアウトソーシングの立ち上げを担当し、年間12億規模の実績をつくる。07年、東京本社へ異動し、金融機関向け基盤ソリューションの営業グループリーダに就任。13年4月に現職に就いた。
●所属..........ITインフラソリューション事業本部
営業本部 ソリューション営業部
ワークスタイルイノベーションSOL営業グループリーダー
●担当する商材.......... DaaSなど、ワークスタイルの変革を支援するツール
●訪問するお客様.......... 業務改善を課題とする新規顧客
●掲げるミッション.......... 新規顧客を開拓し、製品を広く普及させること
●やり甲斐.......... 自ら組織をつくり、新規事業を軌道に乗せること
●部下を率いるコツ.......... 部下の「変わり続ける」を支援する
●リードする部下.......... 12人
商談プロセスの入り口を重視
アポイントメントを取って、お客様を訪問して提案する。そして、クロージングに入って、注文に結びつける。こうした新規顧客開拓の流れのなかで、一般に「アポイントメントを取る」の部分は軽視されがちだ。新人に電話のアポ取りをさせ、リーダーの出番はクロージングの段階にあると考える人が多いだろう。私はまったく逆だと捉えている。アポ取りは、お客様との商談の入り口なので、営業活動の流れで最も重要な部分だと思う。だからこそ、新人ではなくて、一番経験が長く、力のあるリーダーがやるべきだ、というのが私の信念だ。
2013年の4月に、DaaSやMDMなど業務改革を支援するツールを取り扱う「ワークスタイルイノベーションSOL営業グループ」を立ち上げた。こちらの営業は、各案件のボリュームが小さいので、できるだけ多くのお客様に提案して買っていただくことがポイントになる。つまり、数少ないお客様に入り込み、ニーズを深く知るシステム構築の営業とは、アプローチ法が大きく違うわけだ。ここ数か月の間、私が先端に立って、12人のチームで取り組んだのは、業務改革ツールのターゲットとなる市場を定めて、提案先をセグメント分けするということだ。
まず、400社の企業を選び、そのなかの上位70社に絞って、集中的に営業をかけた。冒頭でお話ししたように、なるべくたくさんのお客様に提案の機会をいただくために、アポイントメントはすべて私が取った。一発勝負という思いを込めて電話をして、手慣れた感じでアポイントメントを決めた。そして、実際の訪問は部下たちに振って、彼らに懸命に提案活動をしてもらった。その成果として、これまで6社から注文を受けることができた。これを励みに私はこれからも電話のアポ取りに力を入れ、部下が一社でも多くのお客様に当社製品を提案できる機会をつくりたい。
もう一つ、リーダーとして重視するのは、情報管理の徹底だ。社内のファイルサーバーに、提案資料をお客様のニーズ別に収納し、受注した案件を事例化して営業のノウハウ集とする資料も揃えている。部下たちはこれらにアクセスして、現在進めている案件にぴったりの情報を手に入れることができる。私のチームは、長年にわたってシステム構築を提案してきたメンバーが多い。業務改革ツールの営業に有効な情報を提供することによって、彼らに「こういう見せ方もしてみよう」と柔軟な考え方を身につけてもらい、今の時代が求める提案スキルをしっかり自分のものにするようにと促している。
[紙面のつづき]経営の発想を前面に出しながらマーケッターの役割をこなす
あるとき、どうしたら営業活動をもっと受注につなげることができるか、悩んでいたときに、先輩から「経営者の立場に立って、IT製品で企業をどう変えられるかを考えて提案するといい」というアドバイスをもらった。そう言われたら、勉強するしかない。さっそく、経営について書かれた本を買って回った。
ところが、こうした本を読み進めていくにつれ、疑問が湧いてきた。「知識を吸収することはできるが、実際にはどうなの」ということだ。本で現場感覚を身につけるには、限界がある。そこで、大学で経営を学び、実践力を磨くことにした。33歳のときに大学の社会人向けコースに入り、現場に精通した講師たちから応用経営学をみっちり叩き込まれた。
2013年4月、DaaS(Desktop as a Service)やMDM(モバイル端末管理)などの製品を取り扱う「ワークスタイルイノベーションSOL営業グループ」の立ち上げにあたっては、大学で学んだノウハウを生かすことができた。当社はこれまでもサービス事業の本格展開に何度も挑戦してきたが、「製品ができてから販売先を考える」という技術者的な発想が妨げになって、失敗を繰り返してきた。
今度こそ、と思いながら、サービス事業の成長基盤をつくるために私が力を入れたのは、技術部隊と議論して、彼らにもビジネスの発想をもってもらうことだった。高いプライドをもつ技術者たちに、まずお客様のニーズを汲み取って、それから製品を開発することの必要性を論理的に説明することで、納得してもらった。そのおかげで、現在はとくにDaaSの案件が順調。今年度は、前年度の3倍の受注金額を見込んでいる。
私は、お客様のワークスタイル改革を支援するツールの拡大を目指して、マーケッターとしても活動している。1~2か月に一回のペースで、お客様を集めてディスカッションする場を提供し、ソリューションの認知度の向上につなげている。DaaS製品を提供する協業メーカーに、「こんな人に会いたい」と頼み込んで、彼らの人脈を集客に生かしている。こうして社内外で経営の発想を前面に押し出すことで、サービス事業を大きな成長に導きたい。

愛用のボールペン。これを使って、商談で拾った情報をノートに書き留める。その後、情報をデジタル化すると同時にノートを破棄して、情報漏えいを防ぐようにしている。