科学的な根拠にもとづいて診療方法を選ぶ医療を「EBM(Evidence-Based Medicine)」と呼ぶ。医療システムの開発と販売を手がけるメディカル・データ・ビジョンは、病院と連携して薬剤処方に関するデータを収集・解析し、マーケティング支援ツールとして製薬会社に提供するなど、EBM関連のビジネスを進めている。そこでEBM推進ユニットを率いるのは、2013年に最年少で「シニアマネージャ」に就任した中村正樹さん(32歳)。経営的な視点をもって効率性を重視し、解析担当などを含めて17人の部下を率いている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/津島隆雄)
[語る人]
メディカル・データ・ビジョン 中村正樹さん
●profile..........中村 正樹(なかむら まさき)
2004年、大学を卒業後、開発会社からの出向社員として、メディカル・データ・ビジョンのプロジェクトに参加。その後、社員になって開発や企画に携わる。13年、最年少で「シニアマネージャ」に昇格。営業・データ解析・システム運用を担当するメンバー17人を率いながら、自らもプレイングマネージャーとして活躍している。
●所属..........事業開発部
EBM推進ユニット長
シニアマネージャ
●担当する商材.......... 薬剤処方実態の分析調査・ツール
●訪問するお客様.......... 主に製薬会社
●掲げるミッション.......... 分析ツールを普及させ、IT活用によって医療の質を高めること
●やり甲斐.......... 営業を含め、薬剤処方に精通するプロ集団を走らせること
●部下を率いるコツ.......... 仕事の手本を見せて、部下についてこさせる
●リードする部下.......... 17人
ストイックな仕事ぶりで医療業界の発展に貢献
当社では、「役員○○円」「マネージャクラス○○円」といった具合に、社員の給与を時給に換算して見える化し、金額をまとめた一覧表を会議室のドアに貼っている。これによって、会議のときに、参加メンバーに対して時間オーバーによるお金の損失を数値によって意識させ、決まった時刻までに結論を出すよう促している。
私が部下の営業担当4人と週次ミーティングを開くのは、毎週月曜日の朝7時半。これなら、8時過ぎまでにミーティングを終えて、9時に営業訪問のアポイントメントを入れることができる。ちなみに、10時にアポを入れるのは禁止にしている。1件の訪問で午前中が潰れ、営業活動の効率が下がるからだ。一方、夜は部下が帰りやすいよう、私も早く帰宅することを心がけている。当社は医療システムを開発する会社ということもあって、健全な仕事の流れをつくって、働きやすい環境を整えることを重視している。おかげで「中村さんの部署は会社のなかで一番明るい」と周囲の人たちが感心してくれる。
私がリードするEBM事業は、患者さんの承諾を得たうえで、病院から薬の処方実態に関するデータを集計し、簡単にあらゆる分析ができるデータベースとして、製薬会社に提供している。私は入社当時から、EBM推進をミッションに掲げ、当時の担当役員と二人で、今の事業体制を立ち上げてきた。そして、私と部下の効率のいい営業活動が実を結び、EBMビジネスは現在、部門売上高の約50%を占めている。この実績をベースに、今年は営業主体で新しいサービスをつくり、事業のさらなる拡大につなげたいと考えている。
現在のサービスは、製薬会社のマーケティング部門に向けたものだ。今後投入したいのは、薬の安全性に関わる部門の活動をサポートするサービスである。私は会社の戦略会議で上層部に対して、私のチームの行動を訴求し、方針について手厚くバックアップしてくれるよう、経営幹部や他部門のキーパーソンと信頼関係を築くことに力を入れている。新サービスの開発についても、上からゴーサインをもらって迅速に動き、早期にかたちにしたい。
仕事についてはストイックで、人に対してはフレンドリー。こうしたマネジメントスタイルを貫いて、当社のサービスを普及させることで、データ分析が遅れているといわれる日本の医療界の発展に貢献したい。
[紙面のつづき]DBと医療に精通するプロ集団を育成、わからないことは聞く
当社は薬剤処方に関するデータベース(DB)を販売しているので、私たち営業担当はDBに関する基本知識を身につける必要がある。部下たちにはDB言語のSQLなど、DBについてきちんと勉強させ、得た知識で他社にはない提案力をもつようにしている。
実際に、部下は商談の場でVPNを張ってDBにアクセスし、データをいじりながらどのような分析ができるか、デモンストレーションできるようになっている。一般に営業担当は技術的知識に欠けるイメージがあるので、お客様は「そこまでできるとは思わなかった」と驚いて、当社の営業スタッフのスキルを高く評価してくださる。当然、提案も前向きに検討していただける。
医療業界には英語3文字の略語が非常に多く、部署名にある「EBM(Evidence-based medicine=科学的な根拠にもとづいて診療方法を選ぶ医療)」もその一つ。われわれはDBだけではなく、医療にも精通しなければならない。医療の知識に関しては一人ではとても網羅できないので、ここはチームプレイが重要だと考えている。私自身も営業現場に出て提案を行うことがあるが、わからないことがあったら素直に部下に助けを求めることにしている。
例えば、抗がん剤を開発しているお客様向けの案件を抱えたときに、がんの分野に詳しい部下に「提案書についてどう思う?」と意見を聞いた。「過去にこういう案件を手がけたので、こういうふうに提案すれば受注しやすい」とアドバイスをもらって、無事に注文をいただくことができた。私は部下たちにも、悩みごとを一人で抱え込まず、うまく周囲に頼ることを勧めている。チームとして力を発揮するようにしているのだ。
部下たちには、仕事には全力で取り組むことを要求しているが、オフには上下関係を忘れて楽しく過ごすようにしている。会社のフットサルサークルでいっしょに汗を流したり、「辛い物クラブ」を立ち上げて激辛カレーを食べに行ったりなど、チーム内の人間関係づくりを重視している。

愛用のiPhoneを手放さない。頻繁にメールを見たり、スケジュールを確認したりして、一日でバッテリが切れるほどのヘビーユーザーだそうだ。