施策の内容は前の政権の時とほとんど同じなのに、“なにか元気が出てくる”アベノミクスの本質を考えてみる。
私は、スマートビル/スマートシティに関する活動を2003年頃に開始した。グリーン by ITである。最初は、ビルの運用コストの3~4割が電気代なので、これを削減できればビジネスになりそうかなと思った。ビルの構造をみていくと、各ベンダーの独自技術のかたまりで、垂直統合型のビジネス構造になっている。ここにインターネットの構造と技術を導入できたら、IT業界で起きたような革命を建築業界にも起こせるのではないかという思いをもって、インターネットを用いたスマートビルの仕事に着手した。
しかし、よくよく計算してみると、省エネの市場規模はそれほど大きくないことがわかる。省エネしても大きな収入源にはならない。必要不可欠だけれど、利益には直接つながらないセキュリティビジネスに似ている。通常、エコシステムというと、節電・省エネ、質素倹約、柔和温順で、「我慢・忍耐・縮小」というキーワードが浮かんでくる。しかし、正しいエコシステムは、効率化、生産性向上、弱肉強食・独立自尊で、「知恵・創造・成長」というキーワードにしなければ、活動やビジネスが持続・発展しにくい。だから、「ネガティブをポジティブに変えられないか」と考える。「節電」を「効率化」、「監視カメラ」を「防犯カメラ」、「自給自足」を「LCP(Life Continuity Plan)」にすれば、活動を安心かつ効率的に増加させることが可能になるイメージに変えることができる。「節電」は、同じ量の仕事を少ないエネルギーで行うが、「効率化」では同じエネルギーでより多くの仕事をすることを可能にする。ここで重要なことは、「節電」の実現に必要な技術やものが、「効率化」にも転用できることである。
似たようなことは、データセンターとクラウドの導入でも経験した。データセンターやクラウドは、大量の電気を消費するので、省エネの敵だといわれていた。しかし、オフィスのサーバー類をクラウド化してデータセンターに移設すれば、大きな節電・省エネが実現できる(私どもの研究室では約70%の節電に成功した)。このように、同じものでもポジティブ思考で利用すれば、成長戦略に変身することが少なくないのではないだろうか。これがアベノミクスの本質なのかなと思う次第である。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。