この連載は、IT業界で働き始めた新人さんたちのために、仕事で頻繁に耳にするけれど意味がわかりにくいIT業界の専門用語を「がってん!」してもらうシリーズです。
柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
売り手と買い手の関係を表す略語
IT業界で仕事をしていると、メールや会話で多くの「略語」が使われる。知らないと恥をかくし、場合によっては相手にされなくなってしまうこともある。略語を知らないからとバカにする人は、きっと自身も痛い目にあってきたに違いない。
略語には、社内だけで通じるものがあれば、業界内で一般的に使われているものもある。「わからない言葉があったら、その場で聞くか、後で調べる」のは、新人さんが成長するための第一歩。知ったかぶりをするのは、絶対にやめよう。
今回は、冒頭のお客様と新入社員との会話に出てきた「BtoB」と「BtoC」を解説する。「BtoB」や「BtoC」は、商取引における「売り手」と「買い手」(もしくはサービスの「受け手」)の関係を表す。「B」は「Business(企業)」、「C」は「Consumer(消費者)」の頭文字だ。つまり、IT業界に限った略語ではないことを知っておこう。
IT業界においては、1990年代後半、インターネット上での電子商取引が盛んになった頃から頻繁に使われるようになった用語だ。それまでのITシステムは、多くの場合、社内で閉じた情報を処理していた。電子商取引では、社外と情報をやり取りすることから、「BtoB」や「BtoC」が使われるようになった。ちなみに、「to」の発音を数字の「2」にあてて、「B2B」「B2C」と書くこともある。
BtoCは「Business to Consumer」。つまり、「企業」と「一般消費者」との間で行われる商取引のことである。こう書くと難しく感じるかもしれないが、あなたがコンビニでお弁当を買ったり、通販サイトで本や家電を買ったりするといったことも「BtoC」だ。
BtoBは「Business to Business」。「企業」と「企業」の間の取引だ。家電メーカーが部品メーカーから、製品に必要な部品を購入したり、企業がITベンダーにシステム開発を発注したりするようなことが「BtoB」にあたる。小売業の場合は、商品を卸業者から購入し、それを消費者に販売する。小売業者と卸業者間の取引は「BtoB」、商品などを消費者に販売するのは「BtoC」ということになる。小売業のビジネスモデル全体に対しては、この二つを合わせて「BtoBtoC」などと表現することもある。
多くの派生形が生まれた
売り手と買い手の関係を表す略語には、多くの派生形がある。その主なものを紹介しておこう。
「CtoC(Consumer to Consumer)」は、消費者間での取引を指す。ネットの世界では、個人で出品できるオークションサイトや販売サイトなどでの取引がこれにあたる。
「BtoE」もある。「E」は「Employee(従業員)」を指す。企業が福利厚生の一環として、従業員に自社製品を割安で販売するケースなどがこれにあたる。さらに派生して、社員が行う経費精算や休暇申請などのシステムを「BtoE」ということもある。
まだある。「BtoG」と「GtoC」。「G」は「Government(政府、自治体)」のこと。「BtoG」は、公共事業など、企業が政府や自治体との間で行う取引のことで、「GtoC」 は、政府や自治体と個人との間で行われる取引を指す。広い意味で、ネット上で提供されている国税庁の電子申告・納税システムである「e-Tax」などは「GtoC」の一例である。
略語は「大きな枠組み」を表現
ITベンダーがITシステムを提案したり、開発したりする際には、「お客様の仕事の内容を十分に理解することが大切」だといわれる。「BtoB」や「BtoC」などの略語が使われるのは、ITシステムの役割や領域を「大きな枠組み」として簡潔に表現できるからだ。
また、ITシステムに求められる要件は、利用者によっても変わってくる。仕事で「BtoB」や「BtoC」などの略語に出会ったら、それがどのような取引を意味しているのかを的確にイメージできるようにしておきたい。
Point
●「BtoB」や「BtoC」などの略語は、商取引における「売り手」と「買い手」(もしくはサービスの「受け手」)の関係を表すもの。ビジネスモデルを簡潔に表現するために使われる。
●IT業界では、システム上で扱う「情報」や「お金」の始点と終点を表すために「BtoB」「BtoC」が多用される。そこから、どのようなユーザーが、どんな仕事のために使うシステムなのかイメージできるようにしておこう。