この連載は、IT業界で働き始めた新人さんたちのために、仕事で頻繁に耳にするけれど意味がわかりにくいIT業界の専門用語を「がってん!」してもらうシリーズです。
柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
IT業界以外にも存在するサブスクリプション
ソフトやシステムのライセンス形態の一つである「サブスクリプション」は、それらの利用権を、一定の期間購入することを指す。月額課金もサブスクリプションの一種。聞き慣れないカタカナに戸惑う新入社員がいるかもしれないが、実は、このサブスクリプションという売買契約の仕組みは、IT業界以外でも存在する。
『週刊BCN』も、実はこのサブスクリプションである。「年間」の購読料金を支払うことで、その期間中に発行される本紙が手元に届き、読むことができる。一定期間の利用(購読)権を購入するという意味で、サブスクリプションに当てはまるわけだ。このほか、保険料を毎月支払うことで、契約中に特定の事故があった場合に保険金を得られる保険や、毎月の家賃を支払う住居の賃貸契約もサブスクリプションといえる。
IT業界で、ソフトのサブスクリプションが一般的になったのは、比較的最近の話だ。パッケージソフトでは、永久に使い続けられる「永続ライセンス」を最初に購入し、バージョンアップしたいときには、それ専用のライセンスを購入するのが普通だった。こうした商慣習がソフト業界には根づいていて、お客様が「ソフトの使用料を毎月徴収される」ことに心理的な抵抗があったことが、サブスクリプションが普及しなかった原因だろう。しかし、クラウドがその流れを変えた。「ソフトは一定期間利用するサービス」という認識が広まり、今ではあたりまえになった。
時代に合わせて変化してきた課金の仕組み
お客様に提供するITリソースの対価をITベンダーがどう得るかについては、古くからいろんな方式があって、ITの普及状況や技術条件などによって変化してきた。例えば、企業で使うコンピュータが今よりもはるかに高価だった時代には、ソフトを含むシステム全体を複数のお客様が共同利用するケースがあった。その場合は使った計算能力と時間に応じて料金を徴収する仕組みが用意されていた。
パソコン(PC)が登場し、しかもその価格が下がって企業や家庭に普及すると、PCにソフトをプリインストールして、ひとまとめで売り切るスタイルが増えた。PCに入っていないソフトは、家電量販店やパソコンショップで販売されているパッケージソフトの永続ライセンスを購入して使う。この場合、ソフトは、1人もしくは数人が「1台のPCで使う」ことが前提となっていた。
契約形態は今後も変化する お客様に最適なかたちを追求
いまや、一人が2~3台のPCやスマートデバイスを使い分ける。一人が複数のデバイスを使いこなす時代には、従来のような「一人1デバイス」を前提とした契約は、マッチしにくい。「利用者数」に応じたライセンス形態のほうが受け入れられやすい。
ほとんどのデバイスがネットに常時接続している環境があたりまえになったことで、技術的にも「お客様が使いたい期間だけ、さまざまな環境で使えるソフトやサービスを提供する」という契約の管理を簡単に行えるようになった。「利用者単位のサブスクリプション」は、その点で現在の環境とニーズに適合した契約形態といえる。
お客様にとって最もメリットが大きい契約形態は、利用人数や使い方、システムのライフサイクルといった個々の状況で変わってくる。お客様にとって最も使い勝手がよく、コストパフォーマンスが高いITの使い方はどのようなものか。つくり手も売り手も満足できるビジネスのあり方はどのようなものか。ITビジネスに関わる人には、市場の状況を冷静に観察しながら、そのことを常に考える姿勢が求められている。
Point
●サブスクリプションは、一定の期間のソフトやサービスの利用権を購入する契約のこと。月額課金や年間契約もサブスクリプションの一つ。
●ITの分野では、ハードやソフトの利用契約をどのように交わすのがベストか、さまざまな形式があった。その時の市場の状況やお客様のニーズをみながら、メーカー、ベンダーが納得できるかたちを考える姿勢が大切。