この連載は、IT業界で働き始めた新人さんたちのために、仕事で頻繁に耳にするけれど意味がわかりにくいIT業界の専門用語を「がってん!」してもらうシリーズです。
柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
サーバーの性能を十分に活用する
サーバーは、システムの処理がピーク時でも問題なく稼働することが求められる。ところが、ピークは決まった時期に訪れることが多く、そこを過ぎるとサーバーは遊んでいる状態になる。ピークにあわせて高性能なサーバーを保有しているとしたら、なんとももったいない話だ。そこで出番となるのが「仮想化」である。企業は一般的に複数のシステムを活用しているが、処理のピークが同じ時期とは限らない。であれば、1台のサーバー上に、ピークの時期が違うシステムを載せることで、有効活用できることになる。このように、1台のサーバー上に、あたかも複数のサーバーがあるような環境を実現するのが、仮想化である。
仮想化を説明するとき、実在するサーバーを「物理サーバー」といい、前述の「あたかも複数のサーバー」の部分を「仮想サーバー」と呼ぶ。ちなみに、物理サーバーを仮想化することを「サーバー仮想化」といい、「サーバー仮想化によって、仮想サーバー環境を用意する」というような使い方になる。
仮想化は、サーバー以外にも、デスクトップやネットワークなど、さまざまな分野で行われている。今回はとくに現状の企業ITと関わりが深い「サーバー仮想化」の分野にフォーカスしている。
サーバー仮想化の技術では、サーバーのハードウェアが提供する機能をソフトウェアで擬似的につくり出す。こうしてつくられた仮想サーバーには、物理サーバーと同じように、OSやソフトを入れて動かすことができる。Windows上でLinuxの仮想サーバーを動かすことや、その逆も可能だ。異なるOSで動く複数の仮想サーバーを、一つの物理サーバー上で同時に動かすこともできる。
バックアップやテスト環境にも有効
サーバー仮想化のメリットは多い。すでにある複数の物理サーバーを仮想化し、1台のサーバー上に集約することで管理がしやすくなる。物理サーバーの設置に必要なスペースが少なくて済むだけでなく、その処理能力を十分に使うことができる。障害への備えとしても、仮想サーバーは活用できる。問題なく稼働しているシステムの状態を、仮想サーバーとして丸ごとバックアップしておく。システムの再インストールが必要な障害が起こっても、バックアップした仮想サーバーを新たな仮想化サーバー上にもっていくことで復旧することができる。
さらに、開発やアプリケーションのテストのために新規のサーバーを使いたい場合でも、仮想サーバーなら容易に調達できる。これをクラウドサービスとして提供しているのが、いわゆる「IaaS」である(
本連載第2回、vol.1531参照)。使いたいCPUコア数やメモリ、ストレージ容量、OSを指定するだけで、すぐにサーバーが利用できるようになるのは、仮想化技術のおかげなのだ。
仮想化にはデメリットもある
その一方で注意点もある。1台の物理サーバーでさまざまなシステムを動かすようになれば、その物理サーバーへの依存度が高くなる。万が一、ハードウェアの障害でサーバーが動かなくなれば被害は甚大だ。物理サーバーの信頼性確保や障害対策については十分に考慮する必要がある。
また、仮想サーバー上で動くシステムは、仮想化の仕組みが間に入るぶん、物理サーバーよりもパフォーマンス的に多少不利になる。複数のシステムを並行して動かす場合はなおさらだ。極めて高い性能や安定性を求められるシステムを仮想サーバーで動かしたい場合には、事前の検証が不可欠である。
仮想化技術の本質は、CPUやメモリをはじめとするさまざまなハードウェアがもっている物理的な制約を取り払い、それらの機能や性能を、ユーザーがより使いやすいかたちに再構成して提供するところにある。ハードウェアは常に進化しているので、仮想化のあり方も変わっていくはず。最新の動向に関心をもっていただきたい。
Point
●「サーバー仮想化」は、サーバーのハードウェアが提供する機能をソフトウェアで擬似的につくり出し、動かす技術。1台の「物理サーバー」の上で複数の「仮想サーバー」を動かすことができる。
●サーバー仮想化をうまく活用すれば「サーバー集約」や「社内IaaS」なども実現できる。企業ITにとって、仮想化はますます重要な技術になっている。