日向野三恵子さんは「海外で格好よくビジネスができる」と考えて、当時、海外拠点が多かったトッパン エムアンドアイへの入社を決めた。その後、バブルが弾けて海外拠点は相次いで閉鎖になったが、日本語と英語のバイリンガルである日向野さんは、国内を舞台に外資系企業への営業活動で実績をつくってきた。「女性が生き生きと働く」外資系の世界に溶け込みながら管理職の道を選び、現在は首都圏営業2課の課長を務めている。この7月、チームに新人が配属され、日向野さんはその育成にマネージャーとしての腕を振るう。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
日向野 三恵子(ひがの みえこ)
1992年、大学を卒業後、トッパン エムアンドアイに入社。営業に携わる。入社6年目から、英米文学の勉強などで培った英語のスキルを生かし、外資系企業向けの提案活動を担当。英語で商談をこなし、大型案件を受注する。営業リーダーを経て、2013年、現職に就任。プレイングマネージャーとして部下2人の行動を統括し、新人の育成も担当する。
バイリンガルを生かして外資系向け営業で輝く
自分のお客様を担当しながら部下を管理するプレイングマネージャーとして、タフな日常を送っている。商談は基本的に英語で行う。外資系のお客様は、シンガポールなどにアジア太平洋地域のITを集約する傾向にあって、国内でのインフラ需要は減っている。そこで、私は提案の重点をコンサルティングや運用・管理といったサービスの提供に置き、当社にとってまったく新しいビジネスモデルを打ち出して営業活動に励んでいる。
私はお客様の「こうしたい」を聞くのではなく、お客様も気づいていない潜在的なニーズは何かを考え、ITを提案する。先日、店舗を全国展開するお客様から、アウトソーシングの大型案件をいただいた。システムの運用をすべて当社が行い、お客様の担当部門は企画などの本来業務に集中できるという提案が響き、受注を勝ち取ったのだ。外資系向けの営業はスピードが命。メールや電話でもかまわないので、何かあったらすぐに先方に連絡するようにしている。また、バランスの取れた「距離感」がとても大切だ。外資系のお客様はべたついた営業スタイルを好まないので、一体になってゴールに向けて仕事をしながらも、ある程度距離を置くことを心がけている。
営業リーダーを経て昨年課長に就任したけれど、部下は営業のベテランで、正直いってそんなに管理をしなくても組織はうまく回る。私は子どもの頃から海外に憧れ、懸命に英語のスキルを身につけてきた。外資系企業を訪問し、生き生きと働く女性たちを目の前にして、私も自ずとキャリア形成の意識をもつようになった。この7月、ほやほやの新人が私のチームに配属された。これを機に、あらためてマネージャーとして、彼をしっかり育てていこうと決意した。
若い頃、2年間、あるお客様の下に足しげく通って提案を続け、メインフレーム構築という大型案件を受注したことがある。最後に、お客様に「御社からではなく、あなたから買いますよ」とうれしい言葉をかけていただいたことが、それからの営業活動の原動力になった。私は新人にもそうした仕事の責任や、やりがいを感じるきっかけを与えたいと思い、営業同行などのOJTに力を入れている。
新人に「重要ですよ」と教えているのは、仮説を立てること。仮説からお客様の潜在的なニーズを導き出せば、同じ業界のほかのお客様にも通用する提案ができる。新人には、早い段階から仮説を立てるのに必要な分析マインドをもってほしい。
私の夢は、いつか外資系向け営業の専門部隊をつくることだ。外資系のニーズはインフラからサービスへと変わりつつあるが、独立したセクションでその市場を攻めたい。現段階ではあくまでも夢だけれど、新人も巻き込んで、少しずつ実現に向けて動きたい。
私の営業方針を表す漢字は……「愛」
男性だと、恥ずかしくてなかなか口に出すことができない「愛」。しかし、私はチームを統括するには、愛を込めて取り組むことが大切だと考えているので、この字を選んだ。この7月、ほやほやの新人が私のチームに配属され、来年の4月から独り立ちできるよう、育成に力を入れている。新人を育てるには、営業パーソンとして必要なスキルを身につけてもらうのはもちろんだが、目標を定めて頑張る気持ちを引き出すことが欠かせない。まさに「愛」が求められていると思う。