全国に約6500人が存在するITコーディネータ(ITC)。地方のIT産業活性化や中小企業のIT化を促進するために2001年に誕生した資格制度で、有資格者はITと経営の両方の知識をもつ。資格保有者は全国に点在し、各地方のITCたちはコミュニティをつくって、IT産業の活性化に共同で力を尽くしている。いわば、中小企業のIT事情を知るエキスパートだ。各地域のITCは、地場IT産業の今をどうみているのか。この連載では、各地方のITCに届けてもらった声、地方の現実を各都道府県ごとに毎月第一週に紹介する。(構成/木村剛士)
青森県のITC
佐々木勝彦 氏(青森市)
2003年2月にITC資格を取得。ITCの青森県内コミュニティであるNPO(特定非営利活動法人)の「ITCあおもり」でも活動している。
Q.自身の活動内容と県内ITCの特徴は?
A. 青森県内のITCは、個人事業主よりも企業に所属する企業内ITCが多い。ITCの資格を企業内で生かす機会が少なく、「資格をもっているからこそ」の活動は活発とは言い難い。ただ、資格を生かした仕事をしたいと思っているITCは多い。私は自治体のアウトソーシング業務を請け負いながら、NPOのITCあおもりでも活動している。勉強会を定期的に開催して、意欲の高いITCとともに、県内のIT産業活性化に取り組んでいる。
Q.県内IT産業の景気は?
A. 前年とほぼ同じレベル。中央(首都圏)は景気が回復傾向にあるのかもしれないが、青森にその気運はみられない。また、全国的に広がっているクラウドは、中央では新たなビジネスにつながっているかもしれないが、地方のIT産業にとっては競合相手にしかみえない。既存のソフト開発事業を奪う恐れがあることを考えれば、ビジネスを伸ばす材料にはなっていない。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 青森県内のユーザー企業は、ほとんどが中小企業。当然、ITベンダーのターゲットも中小企業になる。ITC資格制度を発足させた目的の一つは、中小企業のIT化促進にある。地方のIT化はITCが率先して担うべきで、そうなるための継続的な支援も必要だと思っている。ITCの活動を支援するガイドラインや事例集などは、大手のユーザー企業を対象にしたものが多い。地方の中小企業をターゲットにしたITCの活動を支援する策がほしい。
地方のIT市場で、最もIT投資額が大きい分野は自治体だ。自治体の職員は3年程度で異動するケースが大半で、IT関連部門の職員は、ITの知識を蓄積していないことが多い。こうした方々を支援する役割は、地元を理解しているITCであるはず。首都圏に本社を置く大手ITベンダーが入り、自治体に多額の投資を強いるケースがまだ多い。自治体のIT環境を構築するためにITCが入り込む仕組みが必要だ。
山口県のITC
三宅功一郎 氏(宇部市)
2004年11月にITC資格を取得。ITCの山口県内コミュニティであるアイティコーディネータやまぐち協同組合「ITCY」でも活動する。
Q.自身の活動内容と県内ITCの特徴は?
A. 最近の例でいえば、萩地区を訪問する観光客のスマートフォンに、観光情報を配信するシステムを開発・提供している。こうした観光支援システムを手がけているほか、地元の中小企業のIT化支援、経営サポートを行い、ITCのビジネス機会創出を図っている。また、県内のITCなどと協力して協同組合を結成しており、県内ITCのスキルを底上げするための勉強会や、意見交換会を毎月実施している。
Q.県内IT産業の景気は?
A. 前年と変わりはない。県内のIT産業はほぼ、大手のITベンダーから受注する受託型のソフト開発ビジネスで占められている。地方は、首都圏よりも景気の回復が遅い。首都圏の受託型ソフト開発・システム構築ビジネスは盛り上がっていて、人手不足と聞くが、県内のIT産業は、首都圏と比べればまだ活況とはいえない。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 県内ITCと協力して協同組合を組織し、共同で事業を展開することを目指している。一時期は、ITCの活動に国が補助金を用意していた。しかし、最近ではそれらの助成制度もなくなった。地域の中小企業が競争力をつけるために、ITは必須。私たちも、地域の経済団体や金融機関と連携して、地元の経営とIT化を支援していく取り組みを自らが率先して進めていかなければならないが、地方の中小企業のIT化は至難の業であり、国の定期的な支援は必要不可欠だと思っている。
地元のITベンダーは、受託型ソフト開発ビジネスから抜け出さなければならない。山口県では、開発言語「Ruby」を活用した独自性のあるプロダクトを生み出そうとしているが、成功への道のりは遠い。新しい技術を取り入れる力は首都圏のほうがある。地方に進出したい首都圏の企業、首都圏の技術力を学びたい地方──両者にとって有効な連携ができれば、地方は間違いなく活性化する。