時計型や腕輪型などのウェアラブル端末が次々と実用化されていくなか、眼鏡型ウェアラブル端末だけは、これといった決定打に欠けているのが実情だ。あのGoogleでさえも眼鏡型ウェアラブル端末「Google Glass」事業を見直していることを考えるとハードルの高さがうかがい知れる。ソニーで15年にわたって眼鏡型ウェアラブルの研究に従事してきた武川洋・SIG準備室統括部長は、「眼鏡型ウェアラブルは従来のディスプレイとは異なる光学技術が求められるので、技術的ハードルは最も高い」と話す。

透過型ディスプレイのイメージ。
緑色の写真と文字を表示しているが、実物はもっと透けて見える では、どのあたりが技術的に難しいのか──。時計型や腕輪型は既存の液晶ディスプレイを高密度化、小型化することで要件を満たせる。もちろんこれはこれで技術を要するが、半導体の開発と同じように段階を踏んで集積度を高めていくロードマップを描きやすい。現に近年のスマートデバイスの液晶は、まるで紙の印刷物のように高精細、高密度な液晶が搭載されており、粗が目立つ従前のパソコンのディスプレイとは隔世の感がある。

武川洋
統括部長 ところが、眼鏡型ウェアラブルは、(1)透過型であること(2)普通のメガネレンズのように薄いレンズに投影できること(3)直射日光でも視認性があることなど、従来の液晶ディスプレイやプロジェクターとは技術的な土台が大きく異なる“第三のディスプレイ”が求められているのだ。まず透過型であることは、「普通のメガネのように日常的に身につけるのであれば外せない要素」(武川統括部長)。小型液晶ディスプレイやプリズム機構などで視界の一部を完全に奪ってしまうと、視野がそれだけ狭くなり、安全性や快適性に支障が出てしまうからだ。
倉庫でのピッキングや設備の保守作業などの場面で、プロが仕事で使うのであればともかく、一般人が日常的に使うのであれば、やはり透過型は避けて通れない。
あくまでも“普通のメガネと何ら変わりない”外観や重さ、装着感を考えると、メガネのレンズに相当する部分は薄型でなければならず、直射日光下でも映像や文字がくっきり見えなければならない。これらを透過型で実現するためにソニーでは2000年頃から研究に着手し、04年までに技術的な方式を絞り込む。そこから独自に研究開発を進め、世界的なディスプレイ装置に関する学会「国際情報ディスプレイ学会」で成果発表したのが08年、翌年の09年の米国コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)で一般向けに公表するに至った。しかし、その時点では量産化に向けた技術的なめどがまったく立たない状態だった。次号で詳報する。(安藤章司)