ITは、私たちの日常やビジネスに深く関わり、その必要性と価値をますます高め、需要も拡大していくだろう。一方で、工数を提供して対価を得る収益モデルは難しいものになる。それには三つ理由がある。
1.工数の喪失 メインフレーム全盛の時代は、大量のプログラマ需要が生み出され、開発の生産性を高めるための取り組みが盛んに行われて、それ以上に工数需要が拡大していった。ここにきて、この流れが大きく変わり始めている。従来は人手をかけて行ってきたインフラの構築や運用、アプリケーションの開発をクラウドや自動化、人工知能が置き換えようとしているからだ。また、SaaSやPaaSの普及によって、開発需要の喪失は、ますます高まっていくだろう。IT需要は将来にわたって継続的に拡大するだろうが、工数需要は減少に転じると考えられる。
2.ユーザー企業の期待の変化 かつては「合理化」の手段として期待されていたITは、いまや競争力の強化や差異化の手段へと重心を移しつつある。このようなITとの関わりは、何をもって成功かをあらかじめ決められない。かつての「合理化」のように、現状よりも生産性を向上させる、コスト削減するといった明確な目標やKPIの設定ができないため、これまで同様の要件定義からはじめるウォーターフォール型の開発はなじまない。そうなると、アジャイル開発やDevOps、その基盤としてクラウドは、もはや前提となり、求められるスキルも大きく変わることになるだろう。
3.労働力の喪失 直近の5年間(2015~20年)をみると、わが国の生産年齢(15~64歳)は、7682万人から7341万人へと、341万人減少する。工数需要に対応しようとしても、人手がなければ不可能だ。かといって、人数を増やすことで工数を稼ごうとする収益構造では、将来の成長を担保できなくなるだろう。また、若者人口の減少は、結果として開発者の平均年齢を上げることになる。単金相場が伸びないなかでも、年齢が上がれば、給与を上げなければならず、仮に工数需要が確保されても、年々利益が減少する。こうした現実への対処を先送りする理由は、もはやないだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。