総額数千億円ともいわれるマイナンバー（社会保障・税番号）制度の情報システム投資だが、末端の業務パッケージソフトベンダーは、通常の制度改正への対応と同様、ソフトウェアの保守料金の範囲内でソフト的な改修を行うケースが多く、ほとんど売上増にはつながらないとみられていた。実際、制度対応だけなら、パッケージソフトベンダーの“うま味”は、ほぼないといっていい。しかし、取材を進めてみると、あの手、この手で売上増、シェアアップに向けた涙ぐましい努力の一端がみえてきた。

　パターン（1）は、マイナンバー対応へのハードルが高い手組みの古いシステムや、徹底的にカスタマイズされたERPパッケージのリプレース。パターン（2）は、これまで手がけていなかったBPO（ビジネスプロセス・アウトソーシング）への参入。例えば、マイナンバーの収集や保管、廃棄などを請け負うケースがこれに該当する。パターン（3）は、マイナンバーに関わる周辺業務をITで支援するタイプ。情報セキュリティの強化支援や、eラーニングなどの管理者、従業員の教育支援用途の商材などを売るビジネスである。

　パターン（1）の例として、キヤノンマーケティングジャパングループで人事・給与パッケージソフトなどを開発するスーパーストリームは、手組みやカスタマイズ版を使っているユーザー企業に向けて、マイナンバー対応をきっかけに自社製品へのリプレース（買い替え）を重点的に働きかけたところ、第3四半期累計（1～9月期）で、前年同期比約2割増しの引き合いや受注の獲得に結びつけている。

　また、日興通信では、これまで社会保険労務士向けの業務に特化していたパッケージソフトをマイナンバー制度に対応させたうえで、商品名を「らくらくe社労」として、一般企業の社会保険などの業務でも使えるように全面的に刷新した。マイナンバーが社会保障と密接不可分の関係にある点に着目したもので、社労士事務所だけでなく、一般企業でも使えるようにしたことでターゲットとする市場を拡大した。目論み通り、一般企業からの引き合いも上々だという。

　パターン（2）の例では、扱いが厄介なマイナンバーの収集や保管を代行するBPOサービスで、自社の業務パッケージと連動させるかたちでサービスを提供するものだ。実際、財務・会計パッケージソフトなどを開発するミロク情報サービスは、アウトソーシングビジネスを得意とする石川コンピュータ・センター（金沢市）と組んでマイナンバーBPOサービスを始めている。BPOサービスを軌道に乗せれば、パッケージソフトの保守料金にプラスしてストック型の安定収益が得られるメリットも大きい。

　パターン（3）の関連サービスでは、ITホールディングスグループのTISが、手持ちのeラーニングソフト「楽々てすと君」をカスタマイズするかたちで「マイナンバー・eラーニングセット」の販売をスタート。今年度（2016年3月期）末までに100社への納入を視野に入れている。他にもマイナンバーの漏えい防止を目的に、情報セキュリティ商材と組み合わせて販売するパッケージベンダーも少なくなく、マイナンバーをテコに商魂たくましくビジネスを伸ばしている。（安藤章司）