インターネットがビジネスで本格的に活用され始めた1999年に広島で創業したネクストビジョン。ウェブアプリケーションの開発を担うSIerが地元になかったことから順調に業績を伸ばし、3年後には東京進出を試みるも失敗。「天狗の鼻がポキンという感じだった」と、ネクストビジョンの有馬猛夫代表取締役社長は当時を振り返る。東京には競合が多かった。その後、3回目のチャレンジで東京に定着するようになる。現在では、“真のSI”を強みとすることで、SI事業の拡大に努めている。(取材・文/畔上文昭)
真のSIを追求

有馬猛夫
代表取締役社長 「プロマネ(プロジェクトマネージャー)をしていればSI、という風潮がある。それは違う。顧客のすべての要望に応えるのがSI」だと、有馬社長はSI論を語る。なかでも単価の高い上流工程のみを担うSIerは、SIの本質を理解していないのではないかと指摘する。「SIはシステムインテグレーションの略で、すべてを網羅した活動で総合支援するのが本来の意味。上流工程などのおいしいところのみを担うのは、真のSIではない」。
例えば次のような問題がある。広島の企業がIT投資を一大決意し、東京のSIerに発注。東京のSIerは人件費こそ高いが、実績通り、すばらしいシステムを構築した。その後、数年間活用して、システムの更新時期を迎える。ビジネスの変化に合わせてシステムの更新を依頼したところ、要件分析からの見積もりがきた。「そのSIerからは当時の担当者が不在でシステムの内容がわからず、ゼロベースで要件分析からする必要があるといわれたという。それではまた大きな投資が必要になってしまう。実際は当時の担当者が不在なのではなく、下請けに丸投げしていただけのこと」と、有馬社長は広島で起きた実話を語る。その企業は保守料も支払っていたが、結果的には無駄なコストだった。
広島での状況をみていた有馬社長は、顧客のためになるSIを志し、それを強みとするSIerを目指してきた。例えば保守性を高めるために、設計書の統一的な作法、わかりやすいソースコードを徹底し、属人的なものを排除。誰でも対応できるようにしている。また、それはプロマネの重要な任務であると位置づけている。
広島と東京の違い
ネクストビジョンが創業時から注力しているのが、ウェブアプリケーション開発である。「広島では、ウェブアプリを手がけるSIerがなかった。ウェブアプリではプログラマに加え、ネットワーク技術者、画面をデザインするクリエーターも必要。これらの人材でチームを組んで対応する必要があるため、ウェブアプリのSIは簡単ではなかった」。それに対応したことが強みとなっていく。
広島で成功を収めたネクストビジョンだったが、東京進出には苦労したという。「地方では他社がやっていないことがあれば、そこで成功しやすい。東京では似たようなことをしている企業がたくさんある。違いをみつけるのが難しいし、顧客にそれを説明するのも難しい」と有馬社長。地方の企業が成功すると東京に出たがるが、成功した地域と同規模の都市に進出したほうが成功するとのアドバイスをもらっていた。挑戦してみて、それを実感したという。
しかし、「東京は失敗が許される。何度でも挑戦できる。広島では悪いうわさが立って、なかなか立ち直れない」とのこと。また、広島の企業はいろいろなことで頼ってくるため、広く浅くのゼネラリスト的な要素が求められるが、東京では狭く深くのスペシャリスト的な要素が必要とのことである。広島ではウェブアプリケーション開発を中心に事業を広げてきたネクストビジョンだが、東京では物流分野に注力しているのはそのためだ。
顧客が成功してこそ
真のSIを追求する有馬社長には、SI論がもう一つある。
「プログラムは古くならない。ずっと使うことができる。ただし、企業が成長したり、世の中が変化したりするといったことが起きると、それに合わせてシステムをつくり直す必要がでてくる。だから、変化の先にSIerの存在価値がある。SIerがやるべきなのは、顧客の成功を支えること。これしかない。言われた通りにシステムを構築するだけなら、いずれ必要とされなくなる」。
ネクストビジョンは今、IoT関連の取り組みを始めている。同社が注力する製造や物流の分野とIoTは親和性が高いからだ。SIerの存在価値は、こうした新たなソリューションの開発でも発揮できる。とはいえ、SIerの根本は顧客に成功してもらうためにあるとの考えがぶれることはない。