「経営を楽にするという意味では派遣はおいしい。エンジニアさえ確保すれば、簡単に事業を立ち上げることができる」と、シジャム・ビーティービーの加藤大吾代表取締役は言う。名古屋で起業したときは元請け志向だったが、東京に進出する際にエンジニア派遣を始めた。東京進出を確実なものにするには派遣が最適だった。とはいえ、もともと起業するにあたって「派遣をやりたかったわけではない」との思いが強い加藤代表取締役は、脱派遣を目指して自社製品の開発などに注力している。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 シジャム・ビーティービー
所在地 愛知県名古屋市
資本金 1800万円
設立 2000年9月
社員数 7人
事業概要 システム開発、ソフトウェア開発、ネットワーク構築
URL:http://www.sijam.com/ 派遣は禁断の果実

加藤大吾
代表取締役 コンサルティングの次の工程として、システム開発が必要となる。そのシステム開発を請け負う会社として、加藤代表取締役はシジャム・ビーティービーを立ち上げた。「コンサルタントと知り合いになったことで、元請けとしてシステム開発の仕事を得ることができた」という。コンサルタントから、元請けであるべきとのアドバイスも受けていた。
ところが、起業から2年後に東京進出をした際には、派遣業を選んだ。「派遣は、現場にエンジニアを送るだけなので、人材さえ確保できれば簡単に始めることができる。しかも、派遣先から毎月お金が入る」と、加藤代表取締役は派遣事業の魅力を語る。ただ、派遣は何かあれば、簡単に切られてしまう。リーマン・ショックでそれを体験した。「元請け案件の保守を担っていたので、なんとか乗り切れた。派遣だけだったら、何もできなくなっていた」。
また、元請け案件と派遣を半々でやることの矛盾も感じていた。「受託開発は、いかに効率的に短期間で開発するかが重要。派遣は長期間で開発したほうが売り上げにつながる。その狭間で悩んだこともあった」。リーマン・ショックを経験し、派遣事業を終わらせることを決意する。
シジャム・ビーティービーの売り上げで多くを占めるのは、企業内システムとウェブシステムの連携である。例えば、ECサイトのAPIを活用して、企業内システムに売上データを自動で受け渡すといったシステムの開発と運用を担っている。また、脱派遣の切り札として、ゴルフ場向けのパッケージ製品も手がけている。
ゴルフ場向けシステムに注力
「ゴルフにハマったのがきっかけで」と、加藤代表取締役はゴルフ場向けのコンペ盛り上げツール「ゴルフなう」を開発した経緯を語る。ゴルフなうは、同社の主力パッケージの一つであり、クラウドサービスとしても提供している。
「ゴルフ場はIT投資の予算が少ないので、クラウドサービスのニーズが強い。まだ、ゴルフなうの売上規模は小さいが、ゴルフ場業界の変化が追い風となっているので、今後の展開に期待している」。ゴルフ場業界の変化とは、日本ゴルフ協会(JGA)のハンディキャップ規定が米国にあわせて変えたため、その対応にゴルフ場が追われていることを指している。
「これまではゴルフ場ごとにハンディキャップを運営していたが、今後はゴルフ場共通で運営することになる。そこではIT活用が不可欠」と、加藤代表取締役。ゴルフ場がJGAハンディキャップ規定に参加するには、JGAとのプレイヤーに関するデータのやり取りが発生する。ゴルフなうは、そこを自動化する機能を提供する。
JGAハンディキャップ規定によって、プレイヤーはどのゴルフ場でも同じハンディキャップでプレーできるようになる。プレイヤーのメリットを考慮すると、多くのゴルフ場が同規定に参加するはずとの読みから、加藤代表取締役はゴルフ場に営業をかけている。
いずれ派遣は厳しくなる
シジャム・ビーティービーでは、まだ一部で派遣を継続している。ただ、可能な限り、早く辞めたいとしている。現在の好景気がいつまでも続くとは限らないため、今のうちに派遣に頼らない体質に変えようとしているからだ。「派遣の単価は上がってきている。ただ、今の状況はリーマン・ショックの直前に似ている。危険な感じがする」と加藤代表取締役。リーマン・ショックを経験した経営者の直感である。同じことは繰り返せない。
「リーマン・ショックのときは誰も幸せではなかった。あの経験から、何も勉強していなかったでは済まされない。当社には優秀な人材が集まっている。経営者として、どのような人生を提供できるかに責任を感じる」。リーマン・ショックが再来しても動じない経営を目指し、元請け案件とパッケージ製品の両輪で経営基盤の強化を進めていく。