ビッグデータ分析やIoT(Internet of Things)の延長線上にAI(人工知能)ビジネスは存在する──。これが主要ベンダーの見方だ。スマートフォンや自動車、防犯カメラなどから集まる情報は、ビッグデータ解析にかけられて有意な情報へと加工されてきた。この「情報」をAIによって「知識」へと高めていくことで、ビジネスの判断や社会インフラの安全性の向上に役立てられる。本連載ではベンダーがどのようなAIを開発し、どのように活用しようとしているのかをレポートする。(取材・文/安藤章司)

NEC
荒井匡彦
シニアマネージャー ビッグデータ分析やデータウェアハウス(DWH)といった既存のデータ管理系のシステムとAIの最も大きな違いは、自分で判断して、行動できるかの自律性にある。NECの荒井匡彦・ビッグデータ戦略本部シニアマネージャーは、「膨大なデータを裏付けとして、AIが判断、行動してこそ“AI”と呼べる」とし、判断と行動こそがAIらしさだと話す。
NECでは、すでに複数の実証実験を通じて商品化、サービス化に向けて具体的に動き始めている。シンガポールで公営バスの安全管理にAIの活用を試みているほか、鉄道や電力、水道をはじめとする社会インフラの保守作業への応用も視野に入れる。
シンガポールの例では、バスの運転手の属性と運転履歴データをもとにAIが運転手の安全性を判断し、事故を未然に防ぐための提案を行う実証実験にここ1年余り取り組んでいる。運転手の出身国・地域や年齢、性別などの属性とバスに取り付けたセンサによって、急加速や急減速、一定時間以上制限スピードを上回ったり、急な車線変更などの日々の運転履歴を合わせたデータを分析。これをもとにAIが、運転手の潜在的な危険度を判断し最適な教育プログラムを提案する。
実験に参加した約2000人の運転手の属性と日々の運転履歴を組み合わせて、どのような属性の人が、どのような運転的特徴を示したときに事故率が高まるかをAIが自律的に判断し、なおかつデータが増えれば増えるほど精度が高まるよう学習機能を充実させている。これによって、「より安全なバスの運行を実現できる」(荒井シニアマネージャー)と手応えを感じている。
また、NECは顔や指紋を認識する画像処理の開発に取り組んでいるが、こうしたセンシング技術と防犯カメラの映像を組み合わせて、駅や街といった多くの人が集まる場所の安全性を高めるためのAI活用も研究中だ。
例えば、人が輪になって集まったり、逆にある一点から放射線状に散らばるような動きをするときは、輪や放射線状の中心部に何か異常があると推測される。前者は人が倒れているようなケース、後者は何かの脅威がそこにある場合だ。何百台とある防犯カメラの映像は、とても人の目ですべてを見られるものではない。そこで群衆の動きをAIがリアルタイムに認識し、異常が察知されたときは警備に通報したり、入場を制限する行動を起こさせたりするというわけだ。(つづく)