富士通は、AI(人工知能)関連技術を「Zinrai(ジンライ)」ブランドのもとに体系化している。IBMの「Watson」との対抗意識を強くもっており、ブランド名の由来となった“疾風迅雷”のように、AIを活用したビジネスを国内外でスピード感をもって展開していく方針だ。(取材・文/安藤章司)
「Zinrai」の技術的な構成要素は、大きく分けて画像や音声の「知覚・認識」、情報のパターンを発見、読み取る「知識化」、推論や予測、計画を立てる「判断・支援」の三つの領域に分かれる。これらの要素がシームレスに連携してAIを形づくる。
まず一つ目の「知覚・認識」の領域では、従来のコンピュータが苦手としてきた人の感情を読み取る技術開発で「他社をリードしている」(富士通の水野浩士・総合商品戦略本部本部長代理)と、人の目の動きや声の抑揚から感情を読み取る技術に自信を示す。
例えば、ショッピングモールの陳列棚で、来客の目線がどう動いたかの“視線履歴”から注目されている商品を可視化し、注目されている背景や理由の分析に役立てる。
また、コンタクトセンターでも、声の抑揚からユーザーのストレス度合いを推し量ることが可能になる。音声認識で文字化し、そのなかから問題となるキーワードを抽出する手法は、多くのコンタクトセンターで実用化されているが、これに加えて感情も読み取れるようになれば問題発見の精度がより高まる。岡山県で行った振り込め詐欺検知の実証実験では、キーワード検出に組み合わせるかたちで、被害者が“過信状態”にあるか否かの感情を読み取ることによって、「誤検出1%未満の精度」(同)まで高めている。
二つ目の「知識化」ではビッグデータ分析をより発展させ、例えば小売業で「新規出店の地域はどこがよいか?」という“単語”だけでは答えられない質問に対して、「有楽町地域です。人口動向、沿線情報により将来的に最も多くの来客数が期待できます」などと、「推論を交えて答えを導き出せる」(富士通の橋本文行・AI活用コンサルティング部シニアマネージャー)ようになる。従来は「今月の売り上げトップの店舗は?」の質問に対して「新宿店です」と答えるのが一般的には限界だった。
三つ目の「判断・支援」に関して富士通は、シンガポールマネジメント大学と共同で、鉄道や道路のインフラ整備だけに頼らずに、人々の行動を適切に誘導する研究を行っている。例えば、コンサートやスポーツなど大規模イベントが終わったタイミングで使えるクーポン券を配布することで、特定の鉄道路線に人が集中するのを防ぐ手法だが、これをAIが自律的に判断して、群衆を安全に誘導するところまでもっていく構えだ。(つづく)

富士通の水野浩士本部長代理(左)と橋本文行シニアマネージャー