電子交換機の制御ソフト開発からスタートしたシステムニコル。企業システムの開発を手がけるSIerではなく、ハードの制御を担う組み込みソフト開発ベンダーである。現在では電子交換機が使われなくなりつつあるため、デジタルカメラや医療系の組み込みソフトにも事業範囲を広げている。そのため、システムニコルには画像処理関連のノウハウや技術が蓄積されており、IoT（Internet of Things）関連分野でも応用できるのではないかと今後の展開を模索している。（取材・文／畔上文昭）

通信は国にとって重要な分野

　「通信関係は厳しい」と、システムニコルの田代紀生・取締役は語る。組み込みソフト開発は、デバイスの流行に大きく左右される。例えば、電子交換機がデジタル交換機の登場によって居場所を失うと、システムニコルの主力事業だった電子交換機の組み込みソフトも不要となった。

　また、グローバル化の流れも、通信関連業界に影響を与えているという。「以前は大手キャリアが通信機器の仕様を決めていて、メーカーに依頼するというかたちだった。そのため、キャリアの依頼を受けたメーカーから、当社などの組み込みソフト開発ベンダーに依頼がきていた。ところが、最近ではグローバル調達に変わったため、日本のメーカーかどうかは関係なく、安くていいものを採用する傾向にある」（田代取締役）ことから、通信関係の組み込みソフト開発は減少傾向にあるという。田代取締役はキャリアの研究開発部門も縮小傾向にあるのではないかと危惧しつつも、「通信は国にとって重要な分野。事業としては厳しくても、長く続けていきたい」としている。

　システムニコルの通信関連事業は現在、メーカーから一括形態で業務を請け負い、大手キャリアの携帯電話用交換機およびツールのソフト開発などを行っている。具体的には、交換機保守運用系のソフト開発、共通線信号制御系のソフト開発、基地局固有データ生成ツールのソフト開発、試験推進業務の4プロジェクトを同社の業務範囲としている。

画像処理関連に強み

　システムニコルは、富士通製の電子交換機で組み込みソフトを開発していた経緯もあって、富士通グループと連携するケースが多い。同社はデジタルカメラの組み込みソフトを手がけているが、それも富士通グループのシステムLSI開発企業と連携しながらビジネスを展開してきている。メーカーでシステムLSIの採用が決まると、組み込みソフトも必要となるからだ。「メーカーの案件は、一度受注すると長いつきあいができるというメリットがある」と、田代取締役。商品の開発サイクルにあわせた案件となるため、長いつきあいになるケースが多いというわけだ。

　最近では医療分野にも進出している。具体的には、画像処理関連の組み込みソフト開発である。これによって、新たな展開が期待できるようになった。

　「監視カメラやドローンなどは、画像処理チップを積んでいる。そこでは画像データの加工などの制御が必要になる。さらには通信の制御が必要とされるなど、当社のノウハウを生かすことができる」と、今後の展開に対する田代取締役の期待は大きい。

　画像処理は、IoT分野でも重要な要素の一つとなる。「IoT分野には取り組んでいないが、その方向への流れが確かなら当社もついていく」と田代取締役は語る。AI（人工知能）分野においても、画像処理関連は進んでいるため、同社のノウハウが必要とされることがありそうだ。

自動車産業にも参入

　組み込みソフト業界では、このところ自動車関連も注目度が上がっている。自動運転の実用化が進んでいることや、カーナビゲーションにとどまらない情報端末として進化していること、そしてIoTデバイスとしての役割も担うことが期待されているからだ。システムニコルは自動車関連の組み込みソフト開発に参入していないものの、これまでの経験を生かし、車載用ECM（Engine Control Module）やECU（Engine Control Unit）の検査を請け負う事業に取り組んでいる。

　ちなみに、組み込みソフト業界は、SI業界のような人材不足の状態にはないという。案件ごとに深い知識が求められることから、じっくり人材を育成している。ひと昔前の組み込みソフトでは、ステップ数を減らし、少しでも軽いプログラムをつくることが求められた。チップなどの性能が低く、記憶容量が小さかったためだ。現在ではプログラムの軽さよりも、デバイス関連の深い知識が求められるとのこと。そのため、システムニコルは、強みを生かしながら少しずつ事業範囲を広げている。