「京都はちょうどいいサイズ」とシステム創見の桑原人司代表取締役は語る。受託開発を事業の中心とするシステム創見では、少しずつ自社サービスの開発を増やしてきている。ただ、自社サービスを広く展開したり、さまざまなユーザーニーズに応えたりするには、一社では限界がある。そこで取り組んでいるのが、京都府内の企業が集まって、各社の得意分野を融合したサービスづくりだ。本来なら競合関係にあるため、協業は簡単には実現できない。それができるのは、京都が“ちょうどいいサイズ”のためというわけだ。
中小企業市場を拓く

桑原人司
代表取締役 大手ITベンダーが受注した京都府内案件の請負からスタートしたシステム創見。創業は2001年である。その後も開発案件が途切れることなく続き、エンジニア派遣や受託開発を中心に業績を伸ばしてきた。「口を開けていれば、仕事がくるような状況だった」と、桑原代表取締役は当時を振り返る。
転機となったのは、リーマン・ショックだ。「新規の案件がほとんど止まった。すでに動いているシステムは止めることができないので、その保守でなんとかしのいだ」という。ただ、保守事業だけで景気回復を待つわけにはいかず、新たな事業を模索することになる。その一つが、自社パッケージ製品の開発である。ターゲットは、京都府内の中小企業だ。
「大手ITベンダー経由で開発案件を請け負っていたこともあって、それまでの顧客は中堅以上の企業ばかりだった。大手ITベンダーは中小企業の市場には手を出さない。そこで、自社開発するにあたって、ターゲットを中小企業の市場に置いた。京都府内には企業が約12万社あり、そのなかでITを活用しているのは8万社程度。多くの企業がITを活用していないため、そこにチャンスがある」と、桑原代表取締役は考えた。
中小企業がITを導入しないのは、必要としていないためとされることが多い。ところが、中小企業を多くのITベンダーが敬遠しているだけとの見方もある。実際、「ユーザー企業がITの導入を望んでいるが、どこに相談したらいいのかわからない」との声があったという。
開発したのは、販売在庫管理や取引先管理、営業支援、グループウェアの機能をもつ業務ソフト。オンプレミス版のほか、中小企業が導入しやすいように初期費用不要のクラウド版を用意している。現在では、売り上げの3割を占めるまでに同社のパッケージ事業が成長した。
府内ベンダーで共同開発
パッケージ開発と同時期に取り組み始めたのが、京都府内のITベンダー各社との協業によるソリューション開発である。 「5年ほど前に『これからはクラウドだ』ということで、京都市の外郭団体である京都高度技術研究所が中心となって、研究会をスタートさせた」(桑原代表取締役)のがきっかけで、クラウドサービスの開発が始まった。研究会の名前は、「京都クラウド・ビジネス研究会」。研究会には京都府内のITベンダーが参加し、そのなかから手を挙げた4社(システム創見、システムプロデュース、ジック、エイジシステム)と京都高度技術研究所によって、クラウドサービスの共同開発が進められている。
ブランド名は、「京都クラウド GOZAN」。すでに、「見積・図面GOZAN」「電子化GOZAN」「カルテGOZAN」という三つのクラウドサービスを提供している。
「京都クラウド GOZANでは、参加企業が各社の得意分野を担うかたちで開発を進めている。複数の企業が共同でサービスの開発をするのは珍しいのではないか。それができたのは、京都の規模がちょうどいいからだと思っている。京都よりも人口規模の大きな都市ではITベンダーの数が多過ぎるし、小さな都市ではITベンダーの数が足りない」(桑原代表取締役)。ちなみにシステム創見は、京都クラウド GOZANにおいて、代表と開発・運営・保守(PC版)を担当している。
また、京都では産学公連携組織の京都中小企業情報セキュリティ支援ネットワーク(Ksisnet)が中心となって、京都府内の事業者向けに情報セキュリティの支援を行うなど、“地産地消”型の取り組みが盛んで、システム創見も積極的に協力している。
IoTやAIにも取り組む
今後について桑原代表取締役は、「IoT分野に取り組んでいく。また、AI(人工知能)にも興味がある」と語っている。人材不足で案件過多の状況にあるSI業界だが、今後も続くとは限らない。「京都は(東京五輪が開催される)2020年までもたないのではないか」と、桑原代表取締役は経済不況がくることを想定し、そのための対応策となる取り組みを進めている。