SIerにとって、ストック型ビジネスは事業を安定させるために欠かせない存在だ。BPO/ITOは、そのストック型ビジネスの代表格で、顧客の業務の一部分やITシステムの運用を受託するもの。とはいえ、現実に照らし合わせてみると、BPO/ITOの専業大手が幅を利かせている分野でもあり、SIerが自前で抱えるBPO/ITOはどうしても競争力で見劣りしてしまう。そこで、NTTデータグループのBPO/ITO会社であるNTTデータスマートソーシングは、ある“奇策”を思いつく。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 NTTデータスマートソーシング
所在地 東京都江東区豊洲
資本金 1億円
設立 2013年
従業員数 約1500人
事業概要 NTTデータグループのBPO/ITO会社。コンタクトセンターなど顧客接点業務を強みとする。青森から沖縄まで全国5拠点、中国2拠点のBPO/ITOセンターを運用。NTTデータグループのSIビジネスを支えるストック型ビジネスの役割を担っている。
URL:http://www.nttdata-smart.co.jp/ BPO専業大手との競争は不利

和田泰之
代表取締役社長 SIerのシステム構築は「ワンショットいくら」のプロジェクト、いわゆるフロー型のビジネスで、これだけでは事業基盤が安定しない。そこで保守サービスやBPO/ITOといったストック型ビジネスを一定割合で織り込むことで、事業基盤の安定化を図るSIerは多い。
とはいえ、BPO/ITOはトランスコスモスやベルシステム24など専業大手がひしめいており、SIerが自前で抱えるBPO/ITOは、どうしても規模の面で不利になってしまう。NTTデータスマートソーシングもこうした課題を抱えてきた1社だったが、クラウド/SaaS商材と組み合わせることで突破口を見出そうとしている。
ここでポイントになるのは「クラウド/SaaS商材」であることだ。
SIerは顧客の業務要件に合わせて手組みでシステムをつくったり、既存の業務パッケージシステムをカスタマイズしたりして納入し、その後、これらのシステムのBPO/ITOを受託することが多い。NTTデータスマートソーシングでは、NTTデータグループのSI(システム構築)案件と連動したBPO/ITOを受託することが多く、これはこれで重要なビジネスである。
しかし、個別のSI案件のBPO/ITOは、アウトソーシングする内容にどうしてもバラツキが出てしまい、なかなかBPO/ITO業務の定型化ができず、コスト高の要因になってしまっていた。この点、最初から標準化されたクラウド/SaaSであれば、「BPO/ITO業務の定型化が容易で、コスト競争力の強化、粗利率の向上が見込める」(和田泰之社長)というのだ。
定型化しやすいSaaSに着目
NTTデータスマートソーシングがまず着目したのがSAPグループでクラウド/SaaS方式の経費精算サービスの「コンカー」だった。コンカーの採用とセットで、「経費精算の業務そのものをNTTデータスマートソーシングに任せてはどうか」と顧客に提案。コンカーの運用は定型的であるため、BPOセンター側の研修も定型化が容易に行える。「顧客A、顧客B、顧客Cとそれぞれの業務を個別に習得するより効率化でき、柔軟な人繰りもできる」(和田社長)ようになる。結果的に粗利率の向上にもつながる。
和田社長自身、かつてNTTデータの管理部門に勤務していたとき、グループの経費精算や財務会計、購買などの業務プロセスを統一し、中国無錫にあるBPOセンターで一括処理するプロジェクトを担当したことがあった。このときは「業務の定型化」と「アウトソーシング」の組み合わせで、当該業務にかかるコストを3割ほど削減することに成功している。この経験が、定型化が容易なクラウド/SaaSとBPO/ITOを組み合わせることで粗利率を高める今回の手法につながった。
連携業務を拡大
コンカーとBPOの組み合わせを2015年4月から始めたところ、顧客からの反応は上々。BPOの粗利率と密接に関連する業務の定型化のめどもついたことから、第二弾としてセールスフォースグループでネット通販(EC)システム基盤をクラウド/SaaS方式で提供するデマンドウェアと協業を本格化させている。
ネット通販では顧客(エンドユーザー)対応のコンタクトセンターや荷物の手配といった業務をBPO/ITO方式で受託。これもコンカーと同様、デマンドウェアを基準として業務の定型化を行い、「複数の企業ユーザーに展開することでBPO/ITOの効率化が期待できる」とみている。
経費精算のコンカー、ネット通販基盤のデマンドウェアに続いて、第3、第4のクラウド/SaaS型業務サービスの導入も検討中だ。直近では2件立て続けの外部からの導入になったが、「今後はNTTデータグループのクラウド/SaaS商材との連携も積極的に進めていく」と話す。また、BPO/ITOの業務分野では過去に経験した購買業務などの間接部門系を有力視している。
今後はさらに踏み込んで、出張費精算であれば、大手旅行会社の格安パック、格安航空券と組み合わせてホテル代や飛行機代を削減する仕組みも検討している。こうした取り組みによって、直近の売上高約100億円を20年頃をめどに120億円、営業利益率5%以上を目指していく方針だ。