視点

落としどころとイノベーション

2016/12/16 09:03

 すぐれた人材を社会に排出するために、大学ではアカデミックな基盤に加え、実践的な事例を含めた演習を行い学生たちに向き合っている。

 私の専門であるプロジェクトマネジメントは、応用範囲が広く、ICTのしくみづくりだけでなく、組織活動のあらゆる分野の基礎となっている。基礎の科目に加え、専門科目、演習科目、派生科目、ゼミと多くの科目を担当しているが、最近の学生たちの傾向として気づくことがあった。それは、ダンドリ上手だ。

 プロジェクトマネジメントという言葉は少し固いので、一般向けにはダンドリという言葉で私は代用している。ゴールをしつこいほど明確にシンプルにし、そこから、タスク、組織、予算、リスク、しくみ(コミュニケーションや評価基準)などのダンドリを行う。ダンドリができた状態から実行に移し、でき高を計測・評価しながら進めていく。

 3年次向けの演習授業では、ケース文を読ませ、課題を整理・抽出し、解決の提案をつくる。その提案にもとづいて想定クライアント向けの試作サイトをつくってもらい、提案書との相違を自己評価してもらう。

 したがって、あまり壮大な提案をすると期間内に構築できず信頼できない提案になるし、コンパクトすぎると魅力に欠けたものになる。そのあたりの落としどころの設定がうまいのだ。期間と予算(自分の工数)を考え、ある程度完成度の高いサイトが毎学期提出される。社会人学生が7割を占めるサイバー大学の特性かもしれない。

 逆に、ヒネリの効いた提案は少ない。毎学期1~2名は、「これは、おもしろい!採用しよう!」という提案とサイトができてくる。戦略はユニーク性を必要とする。同じケース文を読み、その後、自分で情報収集をして、クライアントに成果を生み出させるためには、マーケットに振り向いてもらうイノベーティブな手法が必要だ。

 炎上させるなどして目立てばよいということでなく、未来志向で先を読んだイノベーティブな提案を人々は求めている。情報過多の現代、落としどころには、すでに多くのモノやコトが落ちており、もはや価値を生まない。脳に汗してイノベーションを起こす訓練も、これからの大学に必要な科目ではないかと私は考えている。



サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
 

略歴


勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。07年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市情報通信IM。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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