新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)は、筑波大学と同大附属病院の協力を得て、「デザインシンキング(デザイン思考)」によるシステム設計技法を確立させた。デザイン思考は、「人」の行動を起点とするもので、要件定義が難しい潜在的なニーズを定義するのに役立つ。図は、「デザイン思考」とその「対照的な考え方」をまとめたもの。前者は人に焦点をあてて、行動観察や定性調査によって、潜在ニーズを掘り起こすのに適しており、後者は従来の要件定義ありきのウォーターフォール型の開発手法に近い考え方だ。(安藤章司)
NSSOLと筑波大病院は、病床配置を決める「病床管理業務」をテーマに、「デザイン思考」を適用。これまでアナログで処理していた業務をシステム化するまでの実証実験を行っている。筑波大病院のベッド数は800床で、医師や看護師などが集まり、毎週3~4時間ほどかけて、どの患者をどのベッドに配置するかを話し合いで決めてきた。
大ざっぱに課題に“当たり”をつけてみたところ「病床稼働率の向上」「患者の入院待ちにかかる時間の短縮」「患者の満足度向上」「病床割当業務の負荷軽減」「重症度や症状に応じた適切な割当」などが挙がった。どれも、漠然としており、このままでは「システム化に向けた要件定義は困難な状況」だと、同プロジェクトを担当したNSSOLシステム開発センターの馬場俊光・イノベーティブアプリケーション研究部長は話す。
そこで「デザイン思考」のシステム設計技法を適用することで、どの部分をシステム化したら、最も業務効率が高まるのかの実証実験を行った。従来の開発手法なら「業務分析」「業務フロー」を定義するところから始めるのだろうが、「デザイン思考」のアプローチでは、毎週開かれる「病床管理」の会議の観察からスタート。目立たないように会議室の端に陣取り、ただひたすら会議の流れを追っていくのである。「デザイン思考」の特徴の一つの「行動観察」と呼ばれるもので、事前に行った関係者への「インタビュー」と合わせて、課題の定義を行っていくものだ。
当初の課題予想の「病床稼働率の向上」や「入院待ち時間の短縮」は、システム化によってかなりの部分を解決できることが判明するとともに、一方で、毎週行われている「病床管理」の会議が、実は医師と看護師の意思疎通、情報交換の場としての色彩が非常に強いという意外な実態がみえてきた。(つづく)