ユーザーがシステムに求めるのは、「ビジネスの成果への貢献」だ。インフラ構築、アプリケーション開発、運用管理などの手段の提供は求めるゴールではない。
ビジネス環境の変化が緩やかであり、役割が自社内に閉じた基幹業務に限られていた時代であれば、要求の変化は比較的少なく、数か月や1年を超える仕様凍結でも変更は限られていた。だから要求仕様通りにQCDを厳守してシステムを開発することは理にかなっていた。また、ユーザーは自分たちが求める機能を明確にできた。
しかし、ビジネス環境の不確実性が高まり、ビジネス・ニーズの変化は突然に訪れる。ITとビジネスとの一体化が進むいま、ビジネス環境の変化に同期してシステムもただちに変えなければならない。しかも、要求仕様は変化し続けるし、要求仕様が定まらないままにシステムを開発しなければならないこともある。しかも、どうしてほしいかをユーザーは明示すことができない。
このような時代に情報システムには次の三つの取り組みが必要になる。一つめは、アジャイル開発。ユーザーと開発者が課題を共有し、協調・連係しながら、ビジネス・ニーズをシステムに仕立て上げてゆく。これによりビジネス環境の変化に迅速・柔軟に同期する。二つめは、DevOps。開発したらただちに本番環境で実行できる仕組みをつくり、維持する取り組みが必要だ。そのためには、開発と運用、お互いがそれぞれの役割に敬意を払い、協調・連係しながら、解決策を模索しなければならない。三つめは、クラウド。開発や運用管理がスピードに対応できても、開発や運用の環境が物理的な機械の導入や設定に頼っていては成果をあげることはできない。そのため、インフラやプラットフォームをソフトウェアの設定だけで利用できるクラウドが前提となる。
ユーザー部門が最終的に必要なのは、「ビジネスの成果」だ。そのためには、できるだけインフラやプラットフォーム、場合によってはアプリケーションを所有せず、つくらないで使うことが理にかなっている。これは「手段を提供する」ビジネスとは明らかに利益相反の関係にあるが、この現実から逃れる術はない。SIビジネスは、この変化への対応を先導し、多くの企業に先駆けて、自分たちの既存のビジネスを破壊する覚悟が必要になるだろう。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。